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第41話 無茶ぶり
しおりを挟む慣れない場所だけど、僕は間違ってもホストではない。こういう場所は初めてだし、酒を作るのも未経験だとお伝えすると、『益々可愛いわね』、とか言われた。
それについ先日酒で失敗したから、飲む方も気を付けなきゃ。
「こういう場所、私の立場なんかお構いなしなのよね。まあ、晄矢さんが目の保養だけど。えっと相模原君か。私の相手してね」
「はい。頑張ります」
ここは大学生らしくいけばいいだろう。大人びる必要はない。
女性のトップって気が強くて努力家っていう勝手なイメージを抱いてたけど、この方、黛さんはお酒のせいかもしれないけど、明るくて話し上手だ(でも気は強そうかな、やっぱり)。そして美人。
大学の話や城南家での暮らしを興味津々で聞いてくれた(もちろん晄矢さんと同室なんて言わない)。
「彼はね。今時流行らないけど苦学生でね」
突然、祐矢氏の声が聞こえてきた。どうやら向こうの集団で僕の話をしてるらしい。
「すごーい。偉いのね」
とは、和服のお姉さまのお言葉。みんなが僕の顔を見ようと体を乗り出す。けど、正面に座ってる晄矢さんの顔は般若みたいになってきた。
「ああ。大学でも優秀なんだよ。いずれはうちのトップを走るんじゃないかと期待してる」
な、なんでそんなに持ち上げるんだ。嫌な予感しかしない。
「そうなんだ。城南先生にあんなふうに言われるなんて凄いじゃない」
「いえ……買いかぶり過ぎです」
僕は少し小さくなってつぶやいた。
「そうだ。藤堂さん、先ほど議論してたこと彼にもお尋ねになってはいかがですか? 若い人の意見も貴重です」
なに……何言ってんだこの人。藤堂さんは丸藤証券の取締役社長だ。
「藤堂さん、彼はまだ学生ですので、余興にもなりません。父さん、酒席とは言え、ふざけ過ぎです」
やんわりと拒否する晄矢さん。ああ、なるほどね。無茶ぶりして僕に恥をかかせようとしてるのか……。僕は別に構わないけど、晄矢さんに迷惑かけたくないな。
藤堂社長の隣に座ってる陽菜さんも憮然とした表情で祐矢氏を睨んでる。
「酒席だからいいだろう。おまえは黙ってなさい。どうですか? 藤堂さん」
「ああ、是非に。うちの人材募集の件なんだ。大学生になら聞いておきたい。出来れば一般論じゃないのがありがたいな」
こいつはグルか。まあ、そんなことはないのだろうけど、本気で聞きたいのかも。藤堂さんは今の学生気質や証券会社に集まってくる就活生に不満があるのだと言った。
「涼、答えなくていい」
小声で晄矢さんが僕に言う。でも、そういうわけにはいかないや。完全にみんな、僕の答えを待っている。僕はさっき記憶したこの会社の情報を取り出した。
「あの、個人的な考え方でよろしければ……」
「おお、なになに?」
ホステスのお姉さんまで身を乗り出してる。でも、晄矢さんの顔に泥を塗るようなことはしたくない。
「御社の求人ページを拝見したのですが……」
僕はその時感じた印象を率直に述べた。忖度をするにはしたけど、学生の意見が欲しいならあまりへりくだる必要はない。それと、酒席だからこそのネタもちょっと挟む。
「尤も、僕は証券や株の世界とはかすりもしないところにいたので……。想像力が足りません。僕の友人には、既に株や投資を始めてる者もいて、彼らには興味深い試みと思います」
あまり突出しないよう、気を付けて話した。こんな貧乏学生の話だ。彼らにとっては無関係層の意見だろう。
――――あれ、でもどうしたんだろう。反応が……。
一瞬だったかもしれない。でも、僕にとっては永遠の長き時間のようにも感じた。キラキラ笑顔で僕を見てるホステスさん以外は、みんな何も言わない。
目の前の晄矢さんすら、口を半開きにして唖然としてる。なんだよっ! なんか僕はまずいことを言ったのか!?
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