上 下
35 / 111

第34話 胸の高まり

しおりを挟む


 ふわふわと宙に浮いてるような感覚。いつもと同じ床や道が、クッションかマットに変わったみたいだ。
 いつもと同じように会話して、いつもと同じように大学に来て講義を受けてるんだけど、教授の言ってることが全く耳に入ってこない。

 でも、『恋人のフリ』だったのが、本気? になってしまってこれからどうなるんだろう。

 ――――いやそれよりも……今夜からのベッドシーンはどうなるの?

 ずっと添い寝状態だったんだ。まさか今晩からやっぱり寝袋にしますとか言えない。
 てか僕はなにを期待してるんだ。期待してる? してるのかっ!

 晄矢さんに出会う前の晩に見た夢を思い出す。朧気でわからないけど、キャンパスで声を掛けられた時、夢で見たあの男にそっくりと思ったんだ。

 ――――あれは、何かを予兆したものだったんだろうか。

 はっ。いかんいかん。一人でなにを百面相してるのか。教授、もう少し楽しい講義を考てくれ。だから人気ないんだよ。
 なんて人のせいにしながら僕は再び教授の話に耳を傾ける。米国の『証人保護プログラム』についてだ。
 組織の上部の人間を密告したり、内部告発をする場合、その行為によって証人が危害を受けることがある。その危険から守るために、国家が身柄を保護するものだ。保護を受けた人は名前も住んでた場所も変え、別人となって暮らす。

 相当な不便を強いられるが、大体の場合、その証人も犯罪者の場合が多い。 
 俗な言葉を使えば、自分の罪を軽くする(または不問にする)ために大物をチクるってことだ。米国ならではの法律で、日本にはない。

――――日本でも、こういう制度があっていいはずなのにな。脅迫されたり危険な目にあって初めて警察が動く。ドラマの見過ぎかもだけど、自殺に見せかけて殺された人もいるかも。

 これはいくらなんでも言い過ぎか。でも、弱い立場の人を守るのも法律の役割で、法律家の仕事だ。
 僕は城南のような大手に行くつもりはなく(実力的にも無理がある)、地域密着型の弁護士を目指してる。国選弁護人にも積極的に手を上げたい。

 ――――晄矢さんの担当してる事件も難しそうだな。貧乏を犯罪の理由にするのは間違ってると思うけど、僕もなにかできたら。
 
 結局、半分以上が頭に入らず、僕は板書をしげしげと眺めることになった。こんなんで前期の試験大丈夫かな……。


 本日は法律事務所に行く日だった。けど、晄矢さんは公判日だったようで不在。なんとなく顔を合わせ辛かったので助かった。
 いつもの自意識過剰なんだけどね。秘書さんにやることを教えてもらい、またまたデータ処理。でもこれも大切な仕事だ。企業や組織の弁護士は、こういう地道な調査が必要不可欠だからね。

 そういえば、この晄矢さんの部屋にもガラス製のチェスが置いてあった。城南邸のもそうだけど、手入れが行き届いて輝いている。
 晄矢さんがやってるとこ見たことないけど、好きなのかな。



「お、やってるな。地味な作業ばかりで悪いな」

 僕が眉間に皺をよせながら画面とにらめっこしてたら、ガラスの扉が開いた。そこに濃紺のスーツにダークグレーのネクタイを締めた晄矢さんが入って来た。

 ――――うわあ。カッコいい……。

 今までも晄矢さんを見ると、胸が締め付けられるような苦しさは感じていた。でも、それとも全く違う。
 僕の胸の高まりは、突然ダッシュした時みたい。どうにも止まらなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

処理中です...