【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺

文字の大きさ
上 下
26 / 111

第25話 知りたいこと

しおりを挟む


 ――――涼のことをもっと知りたい。

 いつものようにダブルベッドの左側に僕は横たわっている。毎晩、変な緊張をするけど、今晩はさらに動悸が激しくなってる。
 法律事務所の執務室で言われたことは、なんだかいつまでも耳に残った。

 榊教授の推薦で僕にこのバイトを依頼しに来た時、なにも調べなかったのかしら。この事務所なら、僕みたいな一市民の素性、すぐにも調べられそうだ。
 いや、多分それは調査済みだろうな。じゃなきゃ、こんな大胆な仕事頼むわけがない。

 ――――晄矢さんの知りたいことは、そんな通り一遍の履歴書じゃないんだろう。

 え、じゃあなんだよ。僕は何度目かの『そこ』に行き当たり、またもや頭がショートしてしまった。

「涼、寝た?」

 ベッドに入ってきてからしばらくスマホをいじっていた晄矢さんが、小声で尋ねてきた。

「ううん、まだ起きてる」

 一瞬狸寝入りも考えたが、素直に応えた。もし晄矢さんが話がしたいのなら、僕は構わない。だって……。

 ――――僕も、もっと晄矢さんのこと知りたい……。

 誰かに興味を抱くなんて、多分僕が生きてきたほぼ二十年間のなかで初めてだ。今まで僕は生きることが精いっぱいで、誰かを好きになることはおろか、友情を感じることすらなかったんだ。

 僕に告白してくる人もいたけど、正直全くときめきとか感じなかった。そういうことに時間を割けるなんて羨ましいなあ、なんて思うぐらいだ。
 いつか、生活に困らないくらいのお金を稼いだら、友人も出来て、恋でも愛でも経験できるって考えていたんだ。

 つまり、この瞬間、僕には余裕ができたんだなと思う。けど、逆に生産性は悪い気がする。時間に追われていた時のほうが、集中して勉強できていたよ。

「大学、もうすぐ試験だろ。勉強は進んでるか?」

 うわ、普通に聞かれた。

「環境が変わったし、うまくいってないんじゃないかと気になってるんだが」

 三条さんが晄矢さんは天才だったと言ってたな。そんな人が僕のこと気にかけてくれてるんだ。

「大丈夫だよ。僕は要領だけはいいんだ。でも、余裕ありすぎてちょっといつもと違う感じ」
「ふうん、なるほど。涼は追い詰められるほうがいいわけだ」
「まあ、ずっとそうだったから。シンプルだったんだよね。今は余計なこと考えちゃって」
「余計なこと? なに、余計なことって」

 ごそっと音がした。目の端で確認すると、晄矢さんはフワフワ枕の上に肩肘をつき、僕の方に体を向けている。
 なぜか冷や汗が滲む。ベッドサイドの小さな灯りに照らされた天井に視線を移した。

「そ……それは、えっと……」
「俺のこととかは……考えてないか」

 はいっ!? なに言ってんのこの人。そりゃ、大雑把に括れば考えてるよ。城南家のこと、城南法律事務所のこと……。このバイトで僕がやるべきことだって、全ては晄矢さんと関わってるんだ。

 ――――いや……待てよ。

 それだけじゃない。風呂上りの裸体を見て焦ったり、寝言にドギマギしたり……。あの日おでこに触れた感触もずっと僕の心拍数を上げてきた。

「どうした? 黙ってないで何か言え」

 晄矢さんの右手が僕に伸びてくる。僕は自覚する。今、めっちゃ追い詰められていることを。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【番外編更新】小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

処理中です...