上 下
22 / 111

第21話 イチゴの味

しおりを挟む


 テーブルマナーもデザートを残すところとなった。季節柄いちごが出てきて僕はまたまた感動する。
 小学生の頃、庭に植えていたイチゴを赤くなる前に食べていた。だって赤くなるまで待ってると他の生物に取られるんだよっ。
 給食で出てきた真っ赤なイチゴを食べてその甘さに驚愕した思い出。イチゴ嫌いの友達が恵んでくれて涙流したなあ。

「そうですね。私は晄矢様を信頼していますから。どのようなことでも受け入れます」

 僕がイチゴのヘタと格闘している間に(どうにかして、ヘタにつく実の部分を限りなくゼロにしたい)、三条さんが僕の質問に答え始めた。

「同性愛も良いかと」

 なるほど。では今回のが偽りの関係であることは知らないんだ……。

「あの、お兄さん……輝矢氏がどこにおられるのかはご存じなんでしょうか」

 ようやく一個めのイチゴを口に入れる。何と甘い! 給食で食べたのよりずっと甘い。砂糖もかけてないのに! 飲み込むのが惜しすぎるっ。

「ああ、それはですね。輝矢様も弁護士ですから。仕事を始めれば一目瞭然なんです。だから晄矢様はもちろん、祐矢様も輝矢様がどこで活動されているかはご存じですとも」

 そうかあ。輝矢氏も城南法律事務所の副所長、しかも筆頭だった。今は不在ということになっている。仕事しないと生活できないものな。

「兄弟の仲はどうだったんでしょう。あの、僕何も聞いてなくて」

 恋人なら聞いてても良さそうだけど。ここは情報を引き出すため、正直に。

「晄矢様らしいですね。いえ、三人様とも仲良しでしたよ。ただ、輝矢様は……」

 そこで三条さんは言葉を止めた。僕はそうと気づいても気づかぬふりをする。懸命にイチゴのヘタをナイフとフォークで取る作業に没頭した。

「晄矢様に嫉妬をされていたかもしれません」
「嫉妬?」

 僕は一人っ子だから、そういう兄弟事情はわからない。小学生の頃は同級生のお兄さんとかが怖かった気がする。大体クラスでえばってる奴は兄貴がいたんだよな。

「はい。輝矢様も優秀な方ですが、晄矢様はそれ以上で……」

 二人の年齢差は学年で三年。大学入学までは同じスピードだったのだが。

「司法試験に合格したのも同じ年、シニアアソシエイトに昇格したのも。そして昨年、祐矢様は二人同時にパートナーに任命したんです。まあ、ご子息ですから、共同経営者は当然なのですが」

 司法試験は受験資格として法学部卒であることか、司法試験予備試験に合格することが必須条件になっている。僕は当然後者狙いだ。
 三条さんによると、兄の輝矢氏は院卒直後に受験した司法試験に合格し(それもすごいことだ)、晄矢さんは大学三年のときに予備試験を経て受験した司法試験に合格した。

「まあ、でもそれは輝矢様が大学生までの話で。弁護士としてのお仕事をスタートされてからは、自分は自分と開き直られたようでした。経営方針では、よく祐矢様と口論されてました」

 それで、祐矢氏の意に沿わない方を結婚相手に選ばれたわけではないのでしょうが。と三条さんは続けた。つまり、輝矢氏は法律事務所を継ぐ気はないということか。

「でも、実は私、長女の陽菜様こそが、城南法律事務所の後継者に相応しいのではと思ってるんですよ」
「え?」
「あ、これ絶対内緒でお願いします」

 三条さんは茶目っ気たっぷりにウインクをする。僕みたいな新参者にここまで話すとは。僕が晄矢さんのスパイとは思わないのかな。いや、多分晄矢さんも同様に思ってるんだろう。

「陽菜様が一番、旦那様、祐矢様にそっくりです。考え方もおおよそドライで、世情やトレンド、取れ高に敏感な方です。事務所のなかでも稼ぎ頭と聞いてます」

 そうかあ。なんかイメージにピッタリだ。僕は最後のイチゴを勢いよく口に放り込んだ。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...