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第13話 勉強
しおりを挟む『ルルールルー♪』
なんだか心地よいメロディが僕の耳をくすぐる。何の音だろう。片目を開け、音の主を探すとどうやら見慣れないスマホから流れている。それにぬっと大きな手が伸び、音が止んだ。
「はっ!」
僕は飛び起きた。そして左右を思いっきり見渡した。
「おはよう、涼」
ああ、そうだった。僕は昨日から、城南家に住み込みのバイトを始めたんだ! あまりにベッドの寝心地が良くて泥のように眠ってしまった。
「おはようございます……」
僕はごそごそとベッドの上に起き上がる。目の前には忙しそうに身支度をする晄矢さんの姿が。
ぴしっとアイロンがかかったストライプのシャツに深い緑色の柄ネクタイを嵌めている。ヤバイくらいカッコいい。
「昨日はよく眠れたようだね」
「はい……夢も見なかった……」
少し照れくさかった。寝袋で寝ようとしたのに、襲われてもわかんなかったくらいに寝た。あ、もちろん襲われてはいない……だろう。
「寝顔、可愛かった。役得だね」
「うっ!」
晄矢さんお得意のジョークとわかってるのに、思わず身を震わせてしまう。彼の口角が上がるのが見える。
「それじゃ、俺はもう行くから。午後から事務所来る?」
「はい。もちろん!」
それはもう楽しみにしてることだ。僕なんか誰も相手にしてくれないだろうけど、雰囲気を味わうだけでもラッキーだ。
「受付でわかるようにしておくから」
「ありがとうございます!」
パチンとウィンクをして晄矢さんは寝室を出て行った。続いて部屋の扉を閉める音。一人で部屋に残された僕は、慌ててベッドから降りた。
――――せっかくこんなに時間があるんだ。いつもなら、バイトで潰されてた勉強時間。僕の朝食時間までまだある。勉強しよう!
昨日はバタバタして何もできなかった。このバイトを始めたのは単に楽するだけじゃない。この間に遅れを取りがちな勉学に励むためだ。僕はちょっ早で支度すると、僕のために用意してくれた机に向かった。
どのくらい勉強していただろう。ふと時計を見るとそろそろ朝食の時間だ。切り上げようとパソコンの蓋に手を掛けたその時、気忙しいノックとほぼ同時に扉が開いた。
「あ……祐矢先生。おはようございます」
僕は立ち上がってお辞儀をした。スーツに身を包んだ城南祐矢氏だ。
祐矢氏は小太りの叔父さん体形だが、高級スーツの姿は威厳があって、昨夜の柄ガウンよりマフィアっぽい。
顔つきは男らしい、鹿児島の西郷さんを彷彿させる(生まれは九州じゃないだろうけど)。そこは晄矢さんや陽菜さんとは似ていない。二人はハーフのお母さま似なんだな。
祐矢氏の『先生』呼びは、それが妥当だろうとの晄矢さんの意見を採用した。
「ふん。勉強か……ま、おまえにはもっといろんな勉強してもらわんとな」
それだけ言うと、またバタンと扉を閉めた。
――――なんだったんだ。今のは。
僕は唖然として、ただ扉を見つめていた。
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