8 / 111
第7話 城南家 2
しおりを挟む「おい、大丈夫か」
僕はエントランスの僅かな段差に躓いてしまった。慌てて抱き起した晄矢さん。彼の整った顔が真正面に来て思わずどきりとする。
――――なんか……カッコいいんだけど。
赤面したのを悟られぬよう、僕は俯く。
「すみません、だ、大丈夫です」
「緊張してるんだな。そういうとこが可愛い」
ひえっ。もちろんそこにいるお手伝いさんたちに聞かせようとしてるのはわかる。でも、心臓に悪いよ。
「足元気を付けて。こっちだ」
廊下の先の重厚な扉を晄矢さんが開けると、そこにはホテルのロビーみたいなリビングが広がっていた。
天井は吹き抜けで床には高そうな絨毯が全面に敷かれ、クラッシックな応接セットがいくつか置かれている。今は誰もそこにはいなかったが。
奥はキッチンだろうか。その手前にはこれまたどでかいダイニングテーブルが。家族はここで食事を取るのかな。10人いても全然余裕だよ。
「俺らの部屋は2階だから」
晄矢さんとともに大きなカーブを描いた階段を昇ると、踊り場からは中庭が見えた。
「めまいがしそうだ……」
「広いだけの古い家だよ。さ、ここだ」
両開きのドアが廊下の奥にあった。晄矢さんに手招きされ部屋に入ると、僕は再び倒れそうになる。
――――広すぎる……。
部屋と言っても、中央には書斎のようなテーブルと応接セットが置かれ、左手にはバスルーム。右手奥にベッドルームとなっている。キッチンがないだけで一つの家だ。
「パソコンはあのテーブルに置くといい」
晄矢さんは大きな書斎テーブルの横に置かれた機能的なデザインの机を指さした。
「うちの事務所で使っているパラリーガル用の机を持ってきたんだ」
パラリーガルというのは、まだ資格を持っていないが、弁護士の手伝いをする職務の人だ。僕も卒業までに司法試験に受からなければ、その職に就き、仕事しながら合格を目指すことになる。
「ありがとうございます」
どのくらいの期間になるかわからないが、とにかくこれを利用しない手はない。しっかり勉強するぞ。
「親父には後で紹介する。どうせ、帰りは夜遅い」
そんな能天気な決意をしている場合じゃなかった。恋人のふりの条件は、この家のこの部屋で一緒に暮らすことだ。
晄矢さんの行為に真っ向反対している父親、城南祐矢弁護士への対峙。一体どうなることやら。僕は人知れずごくりと唾を飲み込んだ。
62
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる