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TAKE 59 記者会見 2
しおりを挟む享祐の第一声の後、記者会見場は異様な雰囲気に包まれた。騒然とするなか、指名もされていないのに突然記者から声が上がった。
「それは、越前さん、あの」
「質疑応答は後ほどお願いします」
が、冷静に対応する澤田さんにそれは封じ込められた。享祐が睨みつけるように前を見渡すと、ざわめきは静かになり、主役の言葉を待った。
「僕は、加害者の女性に対しては怒りしかありません。こちらの対応の悪さを棚に上げるつもりはないし、自分の甘さに付け込まれた結果であることも重々承知で言っています。でも、許せない」
いつも『俺』と自分を呼称する享祐だったが、会見用に『僕』に言い換えてる。それだけ、今回は本気だと示しているのだろう。
「僕の甘さ……。それは、僕と三條伊織さんの関係を曖昧にしていたことです。例の報道の後、僕は自分のしょうもない俳優価値を貶めるとか、事務所や伊織に迷惑をかけるとか、そんな言い訳をしていました。
それが、加害者の女性に付け入る隙を与えたのだと思います。だから、彼女と同等に、自分を許せない」
そこで享祐は一つ息をつく。テーブルの上に置かれたペットボトルの水を、静かに一口飲んだ。集まった報道陣はその一挙手一投足を固唾を飲んで見つめている。
享祐はゆっくりと顔を上げ、目の前のカメラを見据えた。
「三條伊織さんは、僕が……心から大切に思っている人です。彼もそうだと信じてます。最初で最後ではないかもしれませんが、本気の恋です」
――――享祐……。
再び画面はフラッシュの音と光の嵐。でも、僕にはそれがよく見えなかった。涙で、滲んで……何もかもが夢の中の出来事のようだった。
その後の会見場はカオスだった。質疑応答は沸騰するのを見越して、1社につき一人、1回のみと決められていたにも関わらず、矢継ぎ早に挙手をする記者たちでごった返した。
それでも享祐側はあくまで冷静に対応し、答えられない質問には率直にその旨を伝えた。
「それでは交際されているということで良いんですね?」
「はい、その通りです」
「今回の会見の内容について、三條さんはご承知でしょうか?」
「もちろん。ですが、伊織は回復に向かっているとはいえ、まだ公の場に立てる状態ではありません。病院側にも迷惑になりますので、取材は当然、張り込みも控えて欲しいですね」
「先ほど、最初で最後ではないかもしれない。とおっしゃってましたが、別れる可能性もあるということでしょうか」
「人生は何が起こるかわからない。そんな不確定なことを安易な気持ちで言葉にすることはしたくない。それだけです」
「これは……ゲイ、のカミングアウトということで良いですか?」
「そう取りたければどうぞ」
「越前さんには今後、映画やドラマ等、予定があるかと思います。今回の発表が、それに悪影響を及ぼすとお考えではないですか?」
「それは、僕を使って下さる側の、それからファンや視聴していただく方がお決めになることと思っています」
「では、現時点で引退されるようなことは……」
「現時点でそれは考えていませんが?」
「三條さんについてはどうですか? 彼の仕事がなくなる恐れは?」
「そうならないよう、支援するつもりです。が、これについては事務所の関係もあるので、僕からは話せません」
享祐は次から次へと放たれる質問に、淀むことなく応え続けた。相当な準備がなければこんなことはできない。
――――僕のために……最善を尽くそうとしてくれてるんだ。
「やっぱり、凄い人ですね。越前享祐は」
隣で東さんがほうっと息を吐く。
「伊織さんが好きになるのも無理ないです」
降参だとでも言うように、首を竦めると、少しふくよかな顔を一層丸くして、笑顔を見せてくれた。
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