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TAKE 51 覚醒
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人の声がずっと遠くで聞こえてる。
『伊織さん、伊織さんっ! しっかりして。救急車がすぐ来ますからねっ』
――――サイレンの音
『三條伊織さん、聞こえますか? 今から病院に行きますよ』
『伊織っ!』
――――サイレンの音
『急いで、そこ、邪魔』
『パトカーどいてもらって、出られないだろっ』
『伊織さん、大丈夫ですからね、もう大丈夫ですからねっ』
――――サイレンの音
『伊織、病院行くぞ。しっかりしろ』
色んな声と音に混ざり合って、享祐の声がした。その都度僕は何か反応しようとするんだけど、どこも動かせない。
腹の辺りが燃えてるように感じる。誰かがしっかり抑えてくれているからなのか、不思議と最初に浴びた激痛に比べれば痛みは治まってる。けれど、ずっと意識は朦朧としてた。
『三條伊織さん、麻酔かけますね』
マスクに白い帽子を付け、目だけを見せてる人が僕の顔を覗き込んで言った。同時に全てが暗転した。
…… …… ……
――――何が起こったんだろう……。
次に気が付いた時、僕の目に映ったのは、時計、白い壁、点滴と管。それからなんかの医療機器。
――――お昼の二時? 僕は確か、九時頃家を出た……。
そうだ。僕は女の人に刺されたんだ。あの衝撃を思い出し、身震いする。咄嗟に手を動かすと、色んな管が下腹部に挿入されていた。
「三條さん? 目が覚めました?」
麻酔を施した人ではない。キャップも服装も違った。淡いグリーンの制服を纏った看護師さんだ。
「あ……はい」
「手術は無事に終了しました。内臓をほとんど傷つけてなくて何よりでした」
「あ、ありがとうございます……」
あの後、何がどうなったのか聞きたかった。けれど、彼女は何も知らないだろう。
「麻酔がそろそろ切れるので、痛くなってきます。痛くなったら、これを押して……」
鎮痛剤についての説明を呆けた頭で一生懸命理解していると、手術をしてくれた医師がやってきて、また色々説明してくれた。
僕を刺したのは果物ナイフほどの短い刃渡りで、場所は脇腹だった。刺される直前体を捩ったのと筋肉が守ってくれたようで内臓はほぼ無傷(ほぼ、なので完全に無傷ではない)。
出血も、直後に止血をした人の手際がよくて少なかったと教えてくれた。
「鍛えてるんだね。腹筋が刃を深入りさせなかったのが功を奏したけど、真正面やられてたら危なかったよ。さすが元戦隊ヒーローだ。あ、私の息子があれ、好きでね」
「はあ……」
とか、能天気に言われてしまった。体を捩ったのは覚えてないけど、身の危険を感じて咄嗟に動いたんだろうな。
「警察が来てるけど、面会は明日って言ってる。犯人は既に捕まってるから、向こうも焦らないだろ」
「あ、あの人、捕まったんですか」
「詳しくは知らないけど、三條さんのマネージャーさん? 彼と管理人さん、それと住人の方で取り押さえたって聞いてるよ」
「そうなんですか……」
東さんの姿があったのは見えていた。それに管理人室には常駐の人がいる。助けてもらったんだ。住人の人って誰だろう。偶然エレベーターから降りて来た人かな。
――――エレベーターホール。そんなに広くないから、逃げられなかった……。
僕の脳裏に、あの時の状況が浮かび上がる。
『あなたは越前享祐を堕落させている』
とりつかれたような目つきだった。けれど、僕が一瞬固まってしまったのはそのせいだけじゃない。
彼女の放った言葉が、ナイフよりも先に、僕に突き刺さったからだ。
『伊織さん、伊織さんっ! しっかりして。救急車がすぐ来ますからねっ』
――――サイレンの音
『三條伊織さん、聞こえますか? 今から病院に行きますよ』
『伊織っ!』
――――サイレンの音
『急いで、そこ、邪魔』
『パトカーどいてもらって、出られないだろっ』
『伊織さん、大丈夫ですからね、もう大丈夫ですからねっ』
――――サイレンの音
『伊織、病院行くぞ。しっかりしろ』
色んな声と音に混ざり合って、享祐の声がした。その都度僕は何か反応しようとするんだけど、どこも動かせない。
腹の辺りが燃えてるように感じる。誰かがしっかり抑えてくれているからなのか、不思議と最初に浴びた激痛に比べれば痛みは治まってる。けれど、ずっと意識は朦朧としてた。
『三條伊織さん、麻酔かけますね』
マスクに白い帽子を付け、目だけを見せてる人が僕の顔を覗き込んで言った。同時に全てが暗転した。
…… …… ……
――――何が起こったんだろう……。
次に気が付いた時、僕の目に映ったのは、時計、白い壁、点滴と管。それからなんかの医療機器。
――――お昼の二時? 僕は確か、九時頃家を出た……。
そうだ。僕は女の人に刺されたんだ。あの衝撃を思い出し、身震いする。咄嗟に手を動かすと、色んな管が下腹部に挿入されていた。
「三條さん? 目が覚めました?」
麻酔を施した人ではない。キャップも服装も違った。淡いグリーンの制服を纏った看護師さんだ。
「あ……はい」
「手術は無事に終了しました。内臓をほとんど傷つけてなくて何よりでした」
「あ、ありがとうございます……」
あの後、何がどうなったのか聞きたかった。けれど、彼女は何も知らないだろう。
「麻酔がそろそろ切れるので、痛くなってきます。痛くなったら、これを押して……」
鎮痛剤についての説明を呆けた頭で一生懸命理解していると、手術をしてくれた医師がやってきて、また色々説明してくれた。
僕を刺したのは果物ナイフほどの短い刃渡りで、場所は脇腹だった。刺される直前体を捩ったのと筋肉が守ってくれたようで内臓はほぼ無傷(ほぼ、なので完全に無傷ではない)。
出血も、直後に止血をした人の手際がよくて少なかったと教えてくれた。
「鍛えてるんだね。腹筋が刃を深入りさせなかったのが功を奏したけど、真正面やられてたら危なかったよ。さすが元戦隊ヒーローだ。あ、私の息子があれ、好きでね」
「はあ……」
とか、能天気に言われてしまった。体を捩ったのは覚えてないけど、身の危険を感じて咄嗟に動いたんだろうな。
「警察が来てるけど、面会は明日って言ってる。犯人は既に捕まってるから、向こうも焦らないだろ」
「あ、あの人、捕まったんですか」
「詳しくは知らないけど、三條さんのマネージャーさん? 彼と管理人さん、それと住人の方で取り押さえたって聞いてるよ」
「そうなんですか……」
東さんの姿があったのは見えていた。それに管理人室には常駐の人がいる。助けてもらったんだ。住人の人って誰だろう。偶然エレベーターから降りて来た人かな。
――――エレベーターホール。そんなに広くないから、逃げられなかった……。
僕の脳裏に、あの時の状況が浮かび上がる。
『あなたは越前享祐を堕落させている』
とりつかれたような目つきだった。けれど、僕が一瞬固まってしまったのはそのせいだけじゃない。
彼女の放った言葉が、ナイフよりも先に、僕に突き刺さったからだ。
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