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TAKE 47 共感
しおりを挟む先日受けたオーディション。なんと最終候補に残った!
それは文芸誌の大賞を獲った作品の映画化で、制作側の思い入れも強く、監督や脚本家は第一線で活躍している人達だ。キャスト側も、主役はもちろん、脇も名だたる俳優陣で固めている。
僕の役は主人公男性の息子だ。原作を読んだけど、とても繊細で重要な役、何としても演じてみたい。
オーディションはこの役だけだから三次にも監督や脚本家が来てた。その中で目を留めてもらったのは自信になるよ。享祐に報告したら(真っ先に電話した)、すごく喜んでくれた。
あのクランクアップの日、僕はドキドキしながら部屋を訪ねた。撮影は終わってしまったし、もう会えなくなるんじゃないかって心配してたんだ。大失敗した後でもあるしね。だけど、それは思い過ごしだった。
「あれは、あまりに興奮し過ぎてて……その、別に享祐に訴えたわけじゃないんだ」
「伊織の本心かと思ったぞ?」
シャンパンで乾杯して(どこまでもお洒落)、自ずとその話になる。ソファーに座って僕は少し小さくなった。
「違うよっ。それは、その……でもごっちゃになってたかも。こんなんじゃ役者失格だね」
「そんなことはない。まあ、ほら、共演者同士が付き合っちゃうことってよくあるだろ?」
共演者同士が結婚することもこの界隈ではよくある話だ。
「ああ、うん」
「それもさ、そういうことだよ。演じてるうちに、ホントに好きになっちゃう。だから、伊織が恥じる必要はない」
享祐はどこまでも優しい。グラスを置いて、僕の頭を撫ぜてくれた。それから自分の肩に僕の頭を誘導する。
「ほんとのこと言うと……。僕は駿矢に共感してた。嘘をつかずに本当のことを言えたらどんなに素晴らしいかって……僕は享祐の恋人で、心から好きだって言えたら……」
「ん……そうだな」
「でも、それは自己満足なだけだよ。今はそんなことしなくても、こんなに幸せだから、その必要はないんだってわかってる」
僕の頭を撫ぜる享祐の腕が温かい。彼のいつものフレグランスが僕を包み込んでいくのが心地よかった。
「その時が来たら……」
「え?」
「必要な時が来たら、俺はいつでも公表する。そんなの何にも難しいことじゃない。俺にとっては。だから、それだけは覚えておいて欲しい」
「享祐……」
僕だってそうだよ。いつでも、今すぐにだって言える。だけど、一時の勢いでそんなことは言わないでおくよ。
僕はまだ自信がないんだ。この関係を享祐の事務所やファンが、そして自分のも、どう反応するのか。
享祐の胸に顔をうずめ、しがみつくように腕を絡めた。心臓の音が聞こえる。柔らかい唇が僕の額や頬、小鼻に降ってきた。そっとそれに僕は自分のを触れさせる。
それを合図に、享祐は僕をソファーへと導き、僕はその身を沈めていく。熱くて甘い夜の始まりだった。
「伊織さん? そろそろ行きますよ」
僕があの夜のことを思い出していたら、東さんに声を掛けられた。
「はっ、あ、そうだね」
思わず妄想にトリップしてしまった。いや、妄想じゃないんだけど、現実にちょっと色付けしてあるというか……どうでもいいことだけど。
今日はバラエティー番組に出るんだ。もうすぐ最終話が配信されるから、その宣伝を兼ねている。僕一人だけど、頑張る。
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