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TAKE 27 京都の夜
しおりを挟む「しかし……想像以上の部屋だ……」
自宅マンションの、享祐の部屋も凄いけど、そこには何かしら生活感がある。しかし、ここには、非日常のゴージャス感と特別感しかない。
僕はシャワーで汗を流し、バスローブなるものを羽織った。着慣れないけれど、ふわふわして気持ち良かった。
ソファーにゆったりと座る。窓からの夜景は息を呑むほどだ。
――――コツコツ
ドアをノックする音。僕は飛び上がってしまった。享祐が来たんだ。なんでインターホン押さないんだよ。
「享祐?」
「ああ。開けて」
ドアを開けると、同じようにバスローブ姿の享祐が来た。廊下を歩くにはお勧めでない姿だけど、隣室なので許されるかな。
「へへ、もういい感じで酔ってるんだ。ルームサービス頼んでおいたから」
「そ、そうなんだ」
享祐はさっきまで僕が座っていたソファーに座る。ほどなくルームサービスが来たので、僕が受け取って同じくソファーに座った。
「シャンパンだ。うわー、本当にエグゼクティブだね」
「せっかく京都まで来たんだ。こういうの味わって損はない」
「ねえ……このホテル、もしかして享祐が払ってたりする?」
僕は思っていたことを聞いてみた。ネットテレビ局は地上局より予算が潤沢とはいえ、俳優陣にこのホテルを使わせるほどではないはずだ。グリーン車がせいぜいだろう。
「気になる?」
「うん……だって、ウチの事務所が払うなんて考えられないし」
享祐は主演だからと、何度も僕らやスタッフに差し入れしている。
僕の方はその足元にも及ばないけれど、事務所が頑張ってくれてた。正直、自分のポケットマネーでは限界があるから助かってるんだ。
だから、今回のホテルも享祐がポケットマネーで出したんじゃないかって気になってた。
「ここのホテル、俺のスポンサーなんだよ。だから気にしなくていい」
「そうなの?」「ああ」
食い気味に享祐は言った。
「俺がここに泊まりたかっただけだし、伊織にも泊まらせたかった。それだけだよ」
乾杯。もうこの話は終わりと言わんばかりにグラスを突きだす。僕もそれに応じた。
「で? どう、ストーカーの気分は」
「ああー。意外にも楽しい」
ずっと二人を付け回してた僕に、享祐は悪戯っぽく聞いた。『相馬亮』も、実は駿矢が付けて来てるのに途中で気付くんだよね。
「そうか。実は俺も楽しい。へへっ」
鼻の下を擦るようにして、享祐は笑った。
僕は少し前までの自分を思い出す。半ばストーカーのように、享祐を付け回してた。享祐がいるであろうスタジオに何度も忍び込んでたんだ。
「好きな奴に付けられるって、嬉しいよな。『好きな奴』限定だけど」
意味ありげな視線を僕に投げかけてきた。優しい、だけどどこか探るような。それでいて隠している。
「享祐……もしかして……気付いていた?」
口から洩れ出たような声は、少し震えていた。享祐はそれには答えず、僕の体を引き寄せる。
「待って……享祐、あの……」
「待てない」
享祐の高い鼻が僕の頬に近づいてきた。そしてやや遅れて唇が……。
顎の線から耳にかけて、右手が這ってきた。シャンパンの香り。そして、いつものオーデコロンの香りが僕を包む。
柔らかな唇が僕のそれを食み、ゆっくりと味わっていった。
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