【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
上 下
27 / 82

TAKE 21 初回配信

しおりを挟む

 本日、ついに初回配信が開始される。あれから慌ただしく年が明け、今日から僕らのドラマが始まるんだ。
 配信だから、チャンネル契約している人はいつでも観られるわけで、別に配信時間に合わせなくてもいい。
 んだけど、やっぱり、その時にリアルで観る人が多ければ、それだけ期待値が高いってことだよね。

「いよいよだな」
「は、吐きそう」

 享祐の部屋、あのデカいモニターの前で僕たち二人はその時を待っていた。内容が内容だけに夜十一時配信だ。
 この夜ばかりは仕事を入れないように東さんに頼んでおいた。選んでる立場じゃないのにね。

「大丈夫かよ」

 ふふっと笑って頭をツンツンしてくる。はあ、でもマジ気持ち悪くなってきた。享祐も仕事切り上げてきたみたいだ。さっきまで青木さんと電話で話してた。

「多分……でも、視聴者数も気になるけど、ドラマとしての完成度が……」

 撮りながら小さなモニターでは逐一チェックしたけれど、四十分通しては観てないんだ。正直、そっちの方が気になった。
 だって、いくら初回の視聴者数が多くたって、役者がヘボだったらそれで終わりだよ。評判次第でドラマは終わっちゃう。

 ――――ううっ。やっぱり吐きそう。

「お、始まった」

 ――――ひええっ。

 当たり前だけど、僕が映ってる。テレビに映るのは初めてじゃないし、子供向けとは言え、毎週、それも地上波日曜朝に映ってた。でも……違うっ。

「ひ、酷い演技だな……」
「そんなことない。ま、少し硬いけど、初々しくていいよ」

 なんて享祐が慰めてくれるけど、とてもじゃないけど直視できない。僕は手で顔を覆い、指の隙間からのぞき見する。まるでホラー映画を怖がる子供みたいだ。

「ほら、しっかり見てろ」

 享祐が僕の腕を取り、肩から頭を自分の腕の中に抱え込んだ。

「ええっ……」

 仕方ない、逃げてても。
 僕はその恰好のままドラマを見入った。配信だからCMがないっ。拷問だよ。

『お坊ちゃまが、本性丸出しだな』
『お仕置きだ。俺を手玉に取ったつもりなら容赦しない』

 ――――ごくん。

 僕は唾を呑み込んだ。だけど口の中がカラカラで実際は空気を飲んだ。

 メインテーマのサビが印象的なシーンで流れてくる。ぐっと気持ちが高ぶる。
 二人のキスシーンから、僕の手首を掴む享祐の大きな手が映し出され、僕の手のひらへと移っていく。固く力を入れたそれは、ゆっくりと解かれていく。 
 よじれたシーツと切ないメロディー。画面にはキャスト、スタッフのクレジットが流れていく。

「伊織……」

 抱えられた腕が外され、僕は自然と享祐に寄り添う。なんだか泣けてきた。

「享祐」

 何故か名前を呼んでみた。呼びたくて、愛しい人の名前を。暖かい手のひらが僕の顎にかかった。
 僕はその手に誘われるまま上を向く。享祐の黒目勝ちな瞳が見えたところで瞼を閉じた。ふっくらとしたあいつの唇が触れる。

 ――――享祐、きょうすけ……

 何度も、何度も唇を食み合う。配信はもう終わってしまったというのに、そんなこと気にも留めず。
 なにがこれほど感極ませているのか。わかってる。あの時無我夢中で演じた、いや、享祐と二人だけの世界に入っていたことを思い出したからだ。

 カメラもスタッフも、僕のなかから消えていた。あの瞬間、僕は駿矢の名を借りて、相馬亮のふりをした越前享祐を愛していたのだから。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...