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TAKE 21 初回配信
しおりを挟む本日、ついに初回配信が開始される。あれから慌ただしく年が明け、今日から僕らのドラマが始まるんだ。
配信だから、チャンネル契約している人はいつでも観られるわけで、別に配信時間に合わせなくてもいい。
んだけど、やっぱり、その時にリアルで観る人が多ければ、それだけ期待値が高いってことだよね。
「いよいよだな」
「は、吐きそう」
享祐の部屋、あのデカいモニターの前で僕たち二人はその時を待っていた。内容が内容だけに夜十一時配信だ。
この夜ばかりは仕事を入れないように東さんに頼んでおいた。選んでる立場じゃないのにね。
「大丈夫かよ」
ふふっと笑って頭をツンツンしてくる。はあ、でもマジ気持ち悪くなってきた。享祐も仕事切り上げてきたみたいだ。さっきまで青木さんと電話で話してた。
「多分……でも、視聴者数も気になるけど、ドラマとしての完成度が……」
撮りながら小さなモニターでは逐一チェックしたけれど、四十分通しては観てないんだ。正直、そっちの方が気になった。
だって、いくら初回の視聴者数が多くたって、役者がヘボだったらそれで終わりだよ。評判次第でドラマは終わっちゃう。
――――ううっ。やっぱり吐きそう。
「お、始まった」
――――ひええっ。
当たり前だけど、僕が映ってる。テレビに映るのは初めてじゃないし、子供向けとは言え、毎週、それも地上波日曜朝に映ってた。でも……違うっ。
「ひ、酷い演技だな……」
「そんなことない。ま、少し硬いけど、初々しくていいよ」
なんて享祐が慰めてくれるけど、とてもじゃないけど直視できない。僕は手で顔を覆い、指の隙間からのぞき見する。まるでホラー映画を怖がる子供みたいだ。
「ほら、しっかり見てろ」
享祐が僕の腕を取り、肩から頭を自分の腕の中に抱え込んだ。
「ええっ……」
仕方ない、逃げてても。
僕はその恰好のままドラマを見入った。配信だからCMがないっ。拷問だよ。
『お坊ちゃまが、本性丸出しだな』
『お仕置きだ。俺を手玉に取ったつもりなら容赦しない』
――――ごくん。
僕は唾を呑み込んだ。だけど口の中がカラカラで実際は空気を飲んだ。
メインテーマのサビが印象的なシーンで流れてくる。ぐっと気持ちが高ぶる。
二人のキスシーンから、僕の手首を掴む享祐の大きな手が映し出され、僕の手のひらへと移っていく。固く力を入れたそれは、ゆっくりと解かれていく。
よじれたシーツと切ないメロディー。画面にはキャスト、スタッフのクレジットが流れていく。
「伊織……」
抱えられた腕が外され、僕は自然と享祐に寄り添う。なんだか泣けてきた。
「享祐」
何故か名前を呼んでみた。呼びたくて、愛しい人の名前を。暖かい手のひらが僕の顎にかかった。
僕はその手に誘われるまま上を向く。享祐の黒目勝ちな瞳が見えたところで瞼を閉じた。ふっくらとしたあいつの唇が触れる。
――――享祐、きょうすけ……
何度も、何度も唇を食み合う。配信はもう終わってしまったというのに、そんなこと気にも留めず。
なにがこれほど感極ませているのか。わかってる。あの時無我夢中で演じた、いや、享祐と二人だけの世界に入っていたことを思い出したからだ。
カメラもスタッフも、僕のなかから消えていた。あの瞬間、僕は駿矢の名を借りて、相馬亮のふりをした越前享祐を愛していたのだから。
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