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幕間 その5

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 越前享祐は愕然とした。伊織の成長スピードが速いのはわかっていたが、ここまでとは予想外だった。
 ついこの間まで、自分の前でも落ち着かずキョドっていたのに。今はどうだ。落ち着いて、堂々としている。受け答えも完璧に近い。スターの風格すら出てきている。

『僕はめっちゃドキドキしましたよ? 好きになっちゃいそうでしたけど』

 越前の答えに乗っかった、100パーセントのフォローだ。インタビューでは、なるべく打ち合わせをしたものを載せたくなかったから、何もなしで挑んだ。
 少し心配ではあったけど、自分がフォローすればいいことだ。だが、そんな必要は全くなかった。

『ふふん、正直だろ?』

 控室に行って記者会見の話をしたら、そう返してきた。まるで、小悪魔のように鼻で笑って。伊織の仕草は駿矢のそれに通じる。乗り移ったかのようだ。

 ――――憑依型と自分で言っていたが、まさしくその通りになってる。

 享祐を見る目も変化している。彼自身、それに気付いているのかは不明だが。挑戦的な目つき。それでいて妖艶な瞬間もある。

 ただ一つ、変わらないのは。

 ――――触れ合えば、あいつが震えているのがわかる。喜びなのか、怯えなのか。それとも羞恥なのか。あいつは俺の腕の中で震えているんだ。

 それが愛おしい。もし恥じているのであれば悲しいが。そうでないと思っている。体は熱を持ち、息も上がる。要するに、『感じている』のだ。

 ――――もちろん、俺も同様だ。けれど……。

 この日、越前は伊織の新たな進歩を目の当たりにした。
 望月優子演じる婚約者の『可南子』の登場だ。伊織は不貞腐れ、嫉妬し、侮蔑されたことに怒り、その全ての感情を相馬へのキスに総括させた。

 その流れも目つきも完璧だった。越前はそのシーンがまるで実際に起こった修羅場のように脳裏に残っている。自分のしたことじゃないのに、罪悪感まで残った。

 ――――にしてもだ。あのキス……。俺の方が震えたよ。

 可南子に見せつけるために挑んだキス。越前は思わず芝居を忘れた。
 食らいつくような伊織の唇に、我慢なんか出来なかった。人が居なけりゃ、そのまま押し倒したことだろう。

「一体、どこまで化けるんだよ……」

 楽しみであり、怖くもあった。



 夜の撮影が終わり、越前は伊織を乗せてマンションに帰った。車中、興奮して話しまくる姿は出会ったばかりの伊織のようだ。

「どうしたの? 黙ってるね。今日」

 それでも越前が相槌しか打たないのに怪訝な表情で尋ねてきた。

「いや、少し疲れた。おまえに圧倒されたしな」
「またそんなことを。でもすみません。疲れてるのに話過ぎちゃった」

 ぺろりと舌を出すのが、フロントガラスに映って消えた。
 今夜、このまま部屋に連れ込んで抱いてしまいたい。そんな猛る気持ちを抑える越前だった。




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