23 / 82
TAKE 18 ヤキモチ
しおりを挟む記者発表の二日前、つまり撮影の二日前、ようやく三話目の台本が届いた。
首を長くして待っていた僕は、貪るように読み、ページをめくった。続きも気になってたし、長台詞とかあったらしっかり記憶したかった。
セリフ覚えは正直いいほうじゃない。なのに、林田監督はいっつもギリギリなんだ。
――――ふう。ここで相馬亮の婚約者が登場ってわけか。やっぱ、原作通りだな。
相馬亮は製薬会社の跡取り息子だ。本人の意向に関係なく、婚約者がいた。当然駿矢は知らないし、相馬自身も忘れていたほどだ。
親同士の口約束で、本気にしてなかったのに、気付けば二人とも独身(相手は相馬より五歳年下だが、キャリアウーマンでバリバリ働いている才女)、でも、彼女はずっと相馬のことが好きだった。
「いや、これ難しいな……」
僕演じる駿矢は当然ヤキモチを妬くんだけど、それだけじゃなくて突拍子もない行動にでるんだ。
相馬の方は、流れに任そうなんて姑息な手段を取るもんだから、二人の関係は自ずとギクシャクして……。あ、姑息な手段って言うのは、僕の個人的解釈だよ。
「うーむ……」
「どうしました? 難しい顔して」
これからバラエティー番組の収録なんだ。控室で眉間に皺寄せてたら、マネージャーの東さんに声をかけられた。
「あ、ううん。難しいなあと思って。僕はこんなふうに感情剥き出しにしたことないから」
「大丈夫ですよ。今の伊織さんなら、なんでも突破できそうだ」
随分、軽々しく言うな。
「無責任だなあ。ああ、でもありがとう。頑張るよ」
「あ、でも……。伊織さん、ずっと越前享祐さんのファンですよね」
何もわかりきったことを。僕がこの話が来た時、どれほど歓喜したか知ってるだろう。
「そうだけど?」
「もし、越前さんに恋人発覚! とか、電撃結婚! とかのスクープ出たらどうします? 穏やかじゃないでしょ」
それは……やだっ! 絶対。享祐がどう思ってるかは知らんけど、僕は、享祐が好きなんだから。
――――でも、どうしよう。今はこうして『嘘の恋人同士』を演じてくれてるけど、本当は本物の彼女がいるかもしれないじゃないかっ。
「いいですねー。その感じでやればいいんじゃないですか?」
けたけたと滅法軽い笑い声が聞こえてきた。東さんが満足そうに笑っている。
「え? もう、酷いな」
僕は何故か照れくさくなって、台本に視線を戻す。今もまだ心臓が少し騒がしい。このざわざわとした感情。それを演技にうまく出せれば。
目を落とす先の台本には『好き』の二文字が躍っていた。
15
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる