【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
上 下
6 / 82

TAKE 4 呼び捨て

しおりを挟む

「試しておかない?」

 僕の目の前で、ずっと憧れ続けていた越前さんがウィンクをした。右側の口の端をついっと上げ、僕の顔をじっと見つめている。鼻の頭がつんと熱を持った気がする。

 ――――や、やばい。鼻血が出そうっ。

 僕は慌てて鼻の頭を押さえる。こんな無様な格好見せたくないよ。

「原作は持ってるんだよね?」
「はい、もちろんです」

 良かった。鼻血出そうなの気付かれなかったみたいだ。僕は急いで本棚に入っている『最初で最後のボーイズラブ』1、2巻を持ってきた。このシリーズはまだ継続中なんだ。

「どこまで実際にやるんだろうね。気にならない?」

 めちゃくちゃ気になってる。これを実写版で忠実に映像化したら、いくら有料コンテンツと言っても放映出来ない。
 なんし、あんなことやこんなことも……。あ、また鼻血が出そうに……。

「さすがにベッドシーンは……え、越前さんはどう思いますか?」
「うーんそうだな。てか、越前さんはやめろよ。享祐でいいよ。こっちの二人も呼び捨てだし」
「ええーっ! そんな、大先輩にそんなことは出来ませんっ」
「伊織」
「は、はいっ」

 い、伊織って呼ばれた。越前さんから自分の名前を呼ばれることがこんなにも感動的とは思わなかった。

「こっち座って」

 越前さんはソファーの自分の隣を指さす。僕はおずおずとそこに腰を下ろした。

「俺達はね、これからこんなことやあんなことをするの」

 開かれた原作本を指さす。そこには二人の熱々のキスシーンが。


 ――相馬は壁際に駿矢を追い詰め、自分の体を盾に閉じ込めた。それでもいきがるように挑発的な視線を向けてくる。
 だが、相馬にとっては、そんな抵抗すらも愛おしく思えてくる。細い顎を右手で掴むと乱暴に上を向かせた。唇を寄せ、舌で存分に駿矢の唇を味わう。

 もっと抵抗するのかと思っていたが、駿矢は黙ってされるがままになっている。いつしか両腕が相馬の背中を這い出す。
 熱い吐息が吐かれたのを合図に、二人は濃厚なキスへと転じ、唇をなぞっていた相馬の艶やかな舌は駿矢のそれと絡み合った――


 こんな官能的なシーンはいくらも出てくる。これはまだ軽い方だ。だから、このシーンは実写化可能と言えた。

「だから、先輩後輩だの、敬語だの、取っ払わなきゃ。そうだろ?」
「そう……ですけど……」

 近い。越前さんの顔がどんどん近くなってくるんだけどっ。ぼ、僕の心臓が、今まさに破裂しそうな勢いで打ち逸ってる。

「ち、近いです」
「ああ、だってそうしてるから」

 僕の顎に越前さんの指が触れる。て、抵抗した方がいいのかな。でも、でもそんなことできないよーっ!


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...