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TAKE 1 記者発表会
しおりを挟む「本日は、ドラマ『最初で最後のボーイズラブ』製作発表にお集まりいただき……」
壇上に登ると、大勢の報道陣が一斉にこちらにカメラのフラッシュを向ける。ネットテレビ局の大会議室。詰めかけた数にこのドラマへの期待度がわかる。
こんなところで眩しがっていてはプロ失格だ。僕は手を振って笑顔を振りまいた。アシスタントがマイクを渡してくれる。
司会者の紹介が終わるのを待つ間、隣で堂々とした態度で立つ越前享祐を見上げた。相変わらずがっしりとした肉体派。
上背も僕より十センチ近く高いんじゃないかな。彫りの深い顔はどこか異国情緒を感じるけど、男らしい顔つきに長い睫毛がセクシーだ。
――――しっかし、腹立つほどカッコいいな。
ふと目が合う。享祐はその風貌とは想像もつかないはにかんだような笑顔を僕に向けた。
「お二人にお聞きします。このドラマのオファーが来た時のお気持ちはいかがでしたか?」
二人同時の質問は、先輩でもある享祐からに決まっている。あいつは、マイクを口元に上げた。
「いや、嬉しかったですよ。俺は原作読んでましたしね。相手が今や飛ぶ鳥を落とす勢いのイケメン俳優、三條君だったし。役者冥利につきる役だと楽しみにしてました」
「それは僕も同じです。憧れの越前さんと共演できるなんて光栄でしたから」
ドラマは来週から放映される。現時点では二話まで撮影されている現在進行形だ。
「原作では随分と濃厚なラブシーンがございますが……その辺りはいかがですか?」
女性レポーターが瞳をキラキラさせながら質問をする。鼻息も荒い。周りからは照れ笑いのような声が漏れてきた。
享祐も釣られたかのように、ふっと鼻で笑ってから応じた。
「えっとですね。誤解を恐れずに言いますと……俺は女性の方とのラブシーンより気楽にできました。遠慮なく、いかさせてもらいました」
ドッと笑い声が会場に溢れた。それが完全に引くのを待たず、僕は被せる。
「ええっ? 僕はめっちゃドキドキしましたよ? 好きになっちゃいそうでしたけど」
引きかけた笑いがさらに大きくなり、会場は沸いた。イイ感じだ。再び享祐と目を合わせる。あいつは片目を瞑り、満足そうに口角を上げていた。
記者会見が終わり、控室に戻った。マネージャーが淹れてくれた珈琲を飲みながらサンドイッチをつまむ。
ランチ替わりのこれを食べ終わったら、『最初で最後のー』の撮影だ。
「おい、今一人か?」
「あ、ああ」
ドアを開け、享祐がやってきた。既に食事は済ましたんだろうか。さっと部屋を見渡し、僕しかいないのを確かめると部屋へ入って来た。
後ろ手で、鍵を閉める音がする。
「さっきの記者会見。可愛いこと言うじゃないか」
「え? ああ、あの、『好きになっちゃいそうでした』ってあれか」
享祐は僕の隣に座ると、僕のコーヒーカップに手を出し一口含んだ。
「そうそう」
「ふふん、正直だろ?」
ははっと軽く笑い、僕の方を覗き込むように向いた。切れ長の双眸にくっきりとした二重。大きな瞳が僕を見つめている。胸の奥がキュンと鳴る。
「顔、小さいな……」
「んん? そうかな」
包み込むように両手を僕の頬に当てる。そしてゆっくりと自分の方に引き寄せた。顎を上向かせ、鼻が当たらないよう少しだけ顔を傾ける。
享祐の弾力のある唇が僕のそれに触れる。今でも震えてくる。彼のキスを受けると……。
初めて越前享祐と口づけを交わした日。それはまだ、クランクインする前のことだった。
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