【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
上 下
2 / 82

TAKE 1 記者発表会

しおりを挟む


「本日は、ドラマ『最初で最後のボーイズラブ』製作発表にお集まりいただき……」

 壇上に登ると、大勢の報道陣が一斉にこちらにカメラのフラッシュを向ける。ネットテレビ局の大会議室。詰めかけた数にこのドラマへの期待度がわかる。
 こんなところで眩しがっていてはプロ失格だ。僕は手を振って笑顔を振りまいた。アシスタントがマイクを渡してくれる。

 司会者の紹介が終わるのを待つ間、隣で堂々とした態度で立つ越前享祐を見上げた。相変わらずがっしりとした肉体派。
 上背も僕より十センチ近く高いんじゃないかな。彫りの深い顔はどこか異国情緒を感じるけど、男らしい顔つきに長い睫毛がセクシーだ。

 ――――しっかし、腹立つほどカッコいいな。

 ふと目が合う。享祐はその風貌とは想像もつかないはにかんだような笑顔を僕に向けた。


「お二人にお聞きします。このドラマのオファーが来た時のお気持ちはいかがでしたか?」

 二人同時の質問は、先輩でもある享祐からに決まっている。あいつは、マイクを口元に上げた。

「いや、嬉しかったですよ。俺は原作読んでましたしね。相手が今や飛ぶ鳥を落とす勢いのイケメン俳優、三條君だったし。役者冥利につきる役だと楽しみにしてました」
「それは僕も同じです。憧れの越前さんと共演できるなんて光栄でしたから」

 ドラマは来週から放映される。現時点では二話まで撮影されている現在進行形だ。

「原作では随分と濃厚なラブシーンがございますが……その辺りはいかがですか?」

 女性レポーターが瞳をキラキラさせながら質問をする。鼻息も荒い。周りからは照れ笑いのような声が漏れてきた。
 享祐も釣られたかのように、ふっと鼻で笑ってから応じた。

「えっとですね。誤解を恐れずに言いますと……俺は女性の方とのラブシーンより気楽にできました。遠慮なく、いかさせてもらいました」

 ドッと笑い声が会場に溢れた。それが完全に引くのを待たず、僕は被せる。

「ええっ? 僕はめっちゃドキドキしましたよ? 好きになっちゃいそうでしたけど」

 引きかけた笑いがさらに大きくなり、会場は沸いた。イイ感じだ。再び享祐と目を合わせる。あいつは片目を瞑り、満足そうに口角を上げていた。



 記者会見が終わり、控室に戻った。マネージャーが淹れてくれた珈琲を飲みながらサンドイッチをつまむ。
 ランチ替わりのこれを食べ終わったら、『最初で最後のー』の撮影だ。

「おい、今一人か?」
「あ、ああ」

 ドアを開け、享祐がやってきた。既に食事は済ましたんだろうか。さっと部屋を見渡し、僕しかいないのを確かめると部屋へ入って来た。
 後ろ手で、鍵を閉める音がする。

「さっきの記者会見。可愛いこと言うじゃないか」
「え? ああ、あの、『好きになっちゃいそうでした』ってあれか」

 享祐は僕の隣に座ると、僕のコーヒーカップに手を出し一口含んだ。

「そうそう」
「ふふん、正直だろ?」

 ははっと軽く笑い、僕の方を覗き込むように向いた。切れ長の双眸にくっきりとした二重。大きな瞳が僕を見つめている。胸の奥がキュンと鳴る。

「顔、小さいな……」
「んん? そうかな」

 包み込むように両手を僕の頬に当てる。そしてゆっくりと自分の方に引き寄せた。顎を上向かせ、鼻が当たらないよう少しだけ顔を傾ける。
 享祐の弾力のある唇が僕のそれに触れる。今でも震えてくる。彼のキスを受けると……。

 初めて越前享祐と口づけを交わした日。それはまだ、クランクインする前のことだった。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...