上 下
188 / 208
第2部

第82話 出血大サービス

しおりを挟む


 『匠の会』コンテンツの一つ、ギター講座を収録した。佐山直々、人気曲のギターテクを披露する。演奏者はもとより、弾かない人にも好評なんだ。
 撮影場所は自宅作業部屋兼スタジオ。便利だけどやっぱり狭い。こいつのために、もっとちゃんとしたスタジオを構えた家に引っ越したいなあ。

「え? 俺はここで十分だぞ。引っ越しめんどいからいいよ」

 と、当の本人は素っ気ない。確かにちゃんとしたスタジオもここからそう遠くないところにあるし。それよりは車が先かな。電車で行くより便利で早いだろう。車と言えば……。

「車のCM、来てたな。受けるんだろ?」

 某自動車会社からCM曲の依頼が来ていた。既存曲での提案も考えたんだけど、佐山は新曲にしたいみたい。車のコンセプトと合わないというのが表向きの理由。でも、実際は違う。

「兄貴の会社のだろ。あいつが何かしたわけじゃないだろうけど、出来合いので誤魔化したくない」

 という、謎の競争心。お兄さんからは、自分は技術者だし主任の身で何かできるわけもない。でも、タイアップが決まったら自慢するとメールが来ていた。

「それに、車、安くしてもらえるかもしれないぞ?」

 という下心もあって頑張ってる。期限はまだ先なので、北海道のレンタカーではここの車を運転する予定。広い北の大地を走らせたら、きっと疾走感のあるメロディーが浮かびそうだ。よね?

『ええっ? 北海道行くの? いいなあ。私も行きたい』

 電話の向こうで叫んでいるのは妹の澪だ。東京にまた遊びに来たいと言ってきたのだが、僕らはいないと告げるとこのリアクション。

「おまえ仕事あるだろ? 僕らは自由業だからな。残念でした」

 スマホの向こうで澪の怒りとも諦めともつかない呻き声が聞こえる。こういう時だけは会社辞めて良かったと思うけど、安定とは程遠い世界だからな。

「澪ちゃん、北海道来ればいいのに。俺は構わないぞ」

 冗談はやめてくれ。クローゼットから旅行用のスーツケースを引っ張り出してる僕に佐山がそんなことを言い出した。

「ホントにいいのか? 僕は妹の前でキスしたりハグされたりは絶対に嫌だ。断固拒否するからな」

 佐山は大きな瞳をより大きく広げた。気づいてなかったんだろうな。

「それは……やだ。お土産買おうな」

 苦笑いしながら口角を上げる。そのしぐさも可愛いや。僕はそんなあいつにひょいと抱きつく。首の後ろに腕を回した。

「うおー! なんだなんだ。今日は出血大サービスなのかっ?」

 大袈裟に驚いて、佐山は僕をぐいと抱きしめる。最近さぼり気味の無精ひげを僕の頬にこすり付けてきた。

「出血はしないけど、サービスしてやってもいい」
「してくれ、してくれ。是非にー!」

 佐山は僕を抱き上げると、すぐそこにあるベッドへと運ぶ。そして二人してそこに倒れ込んだ。マットのスプリングがふわりと僕らをバウンドさせて沈める。

「僕が欲しいか?」
「何を今更。俺はいっつも欲しいって言ってるだろ」

 知ってる。わかってて聞いた。言っておくが、僕もおまえがいつも欲しいよ。おまえと違ってわきまえてるだけだ。

「キスして」

 少しだけ誘う目をして佐山に手を差し伸べる。僕に覆いかぶさるあいつの両目がきらりと光る。色香を放つ唇を僕のそれに重ね、時間をかけて愛撫する。下唇を食み、舌でなぞると、今度は上唇へと移動する。

 そしてその間を割って口の中に舌を侵入させてきた。僕はその淫靡に蠢くものに自分のを絡ませる。あいつの大きな手が顎にかかり、これでもかとねじ込んできた。

「んふ……はぅ……」

 漏れる声と吐息に誘われるように、僕らは深い愛欲の沼へと落ちていった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

処理中です...