【R18】僕とあいつのいちゃラブな日々

紫紺

文字の大きさ
上 下
180 / 208
第2部

第74話 業務用メールボックス

しおりを挟む


 腰が重い。なんてどこかのオッサンみたいなことを呟く僕を許してほしい。あいつは宣言通り、僕がヘタるまで爆走し続けた。今は爆睡だけど。
 それまで酔っぱらって意識なかったくせに、アパートに戻った途端、あいつは覚醒した。

「俺はこの夜を、ずっと待ってたんだよっ。寝てられるか」

 相変わらず大げさな奴だ。ずっと待ってたって、まるで禁欲してたみたいに言うけど、ライブがあってもなくてもおまえ僕を抱いたよな? それはなかったことになってんのかね。いっつもおまえが発情期みたいに突進してきた。
 ……そりゃ、たまには僕もねだったけどさ。

「ツアー最終日のテンションは特別なんだ。この特別の高揚感の全てを掛けて倫を幸せにする」

 真剣な表情で僕を見つめ宣言する。黒曜石みたいな瞳がきらきら輝いているよ。確かにレコーディングから半年以上、走り続けてきたんだものな。僕もおまえを労いたい。

「ああ。ずっとカッコよかったよ。最高のパフォーマンスだった」
「俺を見くびらないでもらいたい。最高のパフォーマンスはこれからだ」

 ……そうですか。それは……喜んでいただきます。
 あいつの最高のパフォーマンスは、お日様が遠慮がちに上がってくるまで続けられた。僕は奴の腕のなかで、何度も甘美な頂点を味わった。確かに……最高だったよ。



 佐山が気絶したように寝ている間、僕はシャワーに向かった。冒頭呻いたように腰がだる重い。股関節も鈍痛がする。枕を下に置いてあいつは僕を責め立ててたけど、受けるのも腰に圧がかかるんだよ。ふう、暖かいお湯が気持ちいい。

 スッキリしてリビングに向かい、軽く仕事をする。ツアー最終日の興奮ももちろんだけど、色々の後始末がある。SNSの動向も気になるし。

「あれ? このメール」

 仕事用メールの受信ボックスに見たことのある名前を見つけた。

 ――――佐山のお兄さんだ。

 佐山聡。仕事用の受信ボックスには(株)で始まるもの、カタナカやアルファベットの名前や社名が並ぶ。その中で異彩を放つ日本語の氏名。
 先日、僕はお兄さんに名刺を渡したから、ここにメールを送ってくれたんだろう。プライベートのメールを書き足しておけば良かった。

 僕はドキドキしながらメールを開く。僕が飲み会に向かった後、佐山はお兄さんとどんな話をしたのか僕は敢えて聞いていない。このメールが胸を痛めるものではないように祈った。

『ツアー全日程完走、おめでとうございます。評判も上々だったようで安心しています。市原さんもお疲れさまでした』

 お兄さんのメッセージはライブが素晴らしかったことや、何年ぶりかに佐山と会えてよかったなど、とても好意的な文で埋め尽くされていた。僕は胸を撫でおろしながら目を走らせる。

『まだまだお忙しいとは思うけれど、市原さんと二人でお会いしたい。巧に言うかどうかはお任せするが、内緒の方がいいかもしれないね。あいつのことだから、会うなと言いそうだ。良ければ連絡ください。よろしくお願いします』

 僕はゴクリと唾を飲み込む。突然の提案に僕は緊張する。だけど……。

 ――――僕もお兄さんと二人で会いたいと思ってたんだ。

 断る理由はどこにもなかった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...