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第2部
第73話 千秋楽
しおりを挟むツアー千秋楽は僕らの現在の地元、横浜。移り住んでまだ1年に満たないけど、レコーディングはほとんどこの地で行った。スーパーや楽器店もお馴染みができたし、もうすっかり地元だよな。
「あれ、駅前の楽器店から花来てんじゃん。無理したなあ」
「スタジオからも来てる。ありがたいことだ」
さすが地元。あのスタジオや楽器店では、佐山のツアーポスターも貼ってくれてた。そのうちよく行く焼き肉店とかから送られたりして。でも、もちろんそれも歓迎だ。
「さあ、今日で最後だ。暴れるぞー!」
佐山が僕の隣で吠える。厚い胸板をこれでもかと張り、キングコングみたく腕を上げた。そして僕の首を嵌めにくる。
「うげっ! やめんかっ」
「終わったら、抱くからなっ。待っててくれな」
「わかった、わかったから」
首絞めるのはやめてくれ。佐山の腕の力がふっと抜けようやく息ができる。と思ったら、乱暴に口づけを浴びせた。
「むむっ……」
興奮してるのはわかるけど、もう少し丁寧に扱えよ。ライブが終わったら大打ち上げだ。結局おまえは酔い潰れるに決まってる。ま、それでいいと思うけどな。
ステージ上で文字通り暴れるあいつ。キレッキレのギターサウンドが唸りをあげ、ホールに詰めかけた観客を夢中にさせる。魔法の指がギターの竿を上下すると胸が苦しくなるくらい魅せられてしまう。ホールのボルテージも沸点を超え、それはメンバーがステージを降りるまで沸騰し続けた。
「お疲れっ」
サポートメンバー一人一人にドリンクを渡し、最後に佐山を迎え入れる。
「終わったー! 倫もお疲れ様」
長いツアーがようやく終わったんだ。いくら能天気なおまえでも重圧はあっただろうし、ここにたどり着いてホッとしてるんだろう。興奮と安堵と歓喜の入り混じった表情で僕に抱きついてきた。汗だくのあいつの体が僕を覆う。頭の上で頬ずりしているのがわかる。
「頑張ったな。素晴らしいツアーだったよ。どのライブも最高だった」
「ああ、俺もそう思う。あんたのおかげだよ。ありがとう」
佐山の腕に力が入る。僕の力なんて微々たるものだ。おまえの実力だよ。才能もテクもハートもおまえのものだ。何十曲もの楽曲を生み出す苦労も僕はずっと見てきた。
「この達成感と興奮で最高の気分のまま、あんたを抱くことだけが俺のモチベーションだったんだ。ああ、早く抱きたいっ」
……割りと僕も貢献してそうだな。あいつはより一層強く僕を抱きしめるとコシコシと顎を僕の頭にこすり付ける。下半身をこすり付けられる前に離れるとしよう。
「シャワー浴びて来いよ。メンバーやスタッフさんを労うのが先だ」
さっと体を離しそう言うと、佐山はにやけ顔のまま頷いた。はあ、ライブ中とは真逆の締まりのない顔……も、大好きだよ。
秋の名月の下、どんちゃん騒ぎとはこういうのを言うんだろうな。千秋楽後の大打ち上げは大抵こんな感じになる。何故か裸になるのは出てくるし、大声で歌う奴はいるし、僕は事件と事故が起こらないよう走り回るのがデフォルトだ。
二次会、三次会と場所を変え、ようやく佐山をタクシーに押し込んだ時には深夜3時を回っていた。
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