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第2部
第43話 ファッ〇ラブ
しおりを挟む明日からしばらくこのアパートを離れる。十二日間かけて東海地区の三か所を回る東海シリーズが始まるからだ。
東京に戻ることも可能だが、返って過密日程になってしまう。サポメンは大体帰るみたいだけど、僕らは出っ放し。佐山はツアーとなると半分旅行気分なので、わざわざ帰るなんて考えるはずがない。
「倫、実家に帰っていいんだぞ?」
スーツケースの中に洋服なんかを詰め込んでいる僕に佐山が言う。荷物はステージ衣装も入れるので結構な量だ。さすがのあいつも、何枚か準備している。その日の気分で着たいものも変わるんだろうね。
「冗談言うなよ。ここに帰ってくる方が早いよ」
嘘じゃない。僕の実家からは名古屋に出るほうが、名古屋から東京行くより時間がかかるんだ。公共交通機関がすごぶる不便な土地柄なんだよね。
「そうなん? じゃあ、ホテルでいいか」
ホテルでいいよ。おまえ、まさか僕の実家に行きたいんじゃないだろうな。それこそ冗談じゃない。
親父とはまだ、和解してないんだ。とてもじゃないが、おまえを連れていくなんて自殺行為、したくないよ。
「それより、例の有料コンテンツ。東海シリーズから帰ったら撮るつもりだからな」
例のというのは、初めて企画する有料コンテンツ。サイトのなかで、会費を払うことで見たり聴いたりできるページを制作するんだ。プレゼントやチケットの先行販売も考えてる。
つまりはファンクラブサイトってわけ。佐山にはまだファンクラブはないので、これから募集する。どれくらい入ってくれるだろう。めっちゃ不安。
「それ、なんか名前考えた方がいいよな。水口さんも言ってたろ?」
「うん。ファンクラブって佐山らしくないから、それらしいの考えろって」
「俺らしくないってどういことだよ。佐山巧ファンクラブでいいじゃんな」
あはは。まあおまえの気持ち、わからなくもないけど、水口さんの言うのは正しい。もっと硬派なイメージがいいんだろう。
恐らく入会してくれるのは男性の方が多いだろうしな。だけど、自慢じゃないけど、こういうネーミング、僕は苦手なんだ。
「名前考えるのはおまえに任せるよ」
「え? なんでだよ」
「だって、おまえのほうがこういうの得意じゃないか。閃きがあるっていうのか、頭が柔らかいんだよ」
僕がシャツを畳みながら言うと、あいつは何を思ったのか、隣に座ってきた。
「なんだ。どうした? なんか入れてほしいものあるのか?」
「頭は柔らかいかもしれんが、こっちは硬くてさ」
胡坐をかいた中心を指さす佐山。そこにはラフなハーフパンツを持ち上げてるものがあった。
「おまえさあ……なんの脈絡もなく興奮して、無節操に起てんなよ」
「仕方ないだろ? あんたがエロ過ぎるんだよ」
「なっ! 人聞きの悪いこと言うなよ! 僕は何にもしてない。荷物入れてるだけだっ」
「息してるだけで悩ましいんだ」
だからなのか。いつも僕の息を止めるのは。いやいや冗談じゃない。息しなきゃ死んじゃうよ。
「おい、わっ」
あいつは僕の手を止め、乱暴な手筈で押し倒す。そのまま筋肉質の体を体重ごと預けてきた。おかげで僕は後頭部を床で打つ。
「いてっ……もう……」
「ダメか?」
僕の鼻先で、あいつは口角を上げる。彫りの深い精悍な顔立ちに、エロさを放つ少し厚めの唇が僕のそれを狙ってる。そう思うだけで、体中が反応してゾクゾクしてしまう。
「ダメじゃない」
安心したようにあいつは唇を重ねてくる。柔らかい舌が僕の中に侵入してきたら、僕はまた夢中になってしがみつく。
あいつが僕の下腹部に押し付けてくる固いものを感じながら、ふと頭によぎる。
――――佐山巧ファックラブ……なんてね。
やっぱり僕にはネーミングセンスはないな。
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