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第2部

第40話 古都旅情 4

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 哲学の道。春は桜、秋は紅葉が美しいのだろうけど、季節は生憎の夏だ。ただ、木陰と水際の道だから、ずいぶんと涼しく感じた。

「なあ、修学旅行でさ、佐山も枕投げなんてした? 女子とか部屋に来た?」

 道すがら、そんな話を振ってみる。またあからさまに話をすげ替えらるかな。

「どうかなあ。あの頃の俺はネクラだったから。女子が来るようなことはなかったな」
「おまえがネクラ? 俄かには信じられないな」
「あのな。天パでおっさん顔の俺が女子高校生にモテるわけないだろ」
「あー。おまえ、高校時代から老け顔だったのか。それは気の毒な」
「老け顔言うなっ。いいんだよ。既に女子には興味なかったから」

 そうか。佐山はもう、自分の本質に気が付いていたんだろうか。思春期の微妙な時期だ。これはあまりつっこまないほうがいい気がする。少なくとも、こんな旅先の浮かれた感じで話すことではない。

「あ、感じのいいカフェがある。喉が渇いたし、甘いもの食べたいから寄っていこう」

 マジでタイミングのいいところに、雑誌に載っていそうなカフェが現れた。まあ、この界隈、ちょっと歩けばあるんだけど。僕らはそこで一休みすることにした。



「珈琲って和菓子にも合うんだなあ。勉強になる」

 抹茶味のスイーツも珈琲と抜群の相性だ。加えて目でも楽しめるから、京都はいいなあ。

「俺、文化祭で初めて人前でギター弾いたんだ。友達と即席のバンド組んでさ」

 甘いお菓子に心が和らいだのか、佐山が自分から話してきた。僕はあまりに興味津々な態度を取らないよう気を付けて耳を傾ける。ホントのところは、食いつきたくなるくらい興味津々だったけど!

「そうなんだ。みんな、驚いたんじゃない? そのころから別格だったんだろ」
「いやあ、そうでもない。普通だよ。ギター初めてまだ浅かったし。でも、それから数週間だけ、異様にもてはやされた。俺の学生時代唯一のモテ期」

「それはわかる。僕らのところでも、文化祭のステージに上がった奴は、たちどころにモテてた」
「倫はそっちはないのか?」
「僕は楽器はやらないよ。知ってるだろ? カラオケだって苦手なんだ」

 音痴とまでは言わないけど、みんなみたいに上手には歌えなかった。今でもカラオケでは、佐山の甘い声に聞き惚れるばかりであんまり歌わない。

「そっか。だから俺に惚れてくれたんだな。良かった、良かった」

 何言ってるんだ。楽器やってるやつにも惚れられてるじゃないか。僕が微妙な反応を示したのがわかったのか、佐山は慌てて話を変えた。

「倫の修学旅行はどうだったんだよ。夜、女子がやってきたりした? あんたはイケてる高校生だったんだろ?」

 興味ないくせに。と、僕は思ったけど、ふと自分のしょうもない学生時代を思い出した。

「そういえば……中学でも高校でも、修学旅行中に呼び出された……」
「な、なに!? そんな誰もが憧れるシチュエーションの経験者とは」

 本当にしょうもない思い出だよ。もちろん、嬉しかったけど、好きな子から告白されたわけじゃなかったし、まだ初心だった僕は、それでどうしていいのかわかんなかった。

 少しずつだけど、佐山が過去のことを話してくれている。これはきっといい兆候なんだよな。あいつが話したいと思っているなら、僕はいつでもそれを受け入れる。自然な形でいいんだ。


 広大な敷地の中に鎮座する慈照寺、通称銀閣寺。銀沙灘と呼ばれる銀色の砂庭を通るとその姿を現す。池のほとりにひっそりと佇んでいた。
 煌びやかな金閣寺と違い、年月を示す深い木肌を晒すそれは、確かに大人びている。侘びさびと言われてもよくわからないが、中高生が見ても楽しくないのはすぐにわかった。

 ――――ググッ、ググッ。

 スマホの振動音が耳に届く。静かなここだからこそ聞こえてしまった。僕のじゃないので佐山のだろう。
 あいつは、ちらりと画面を見て、なんと電源を切ってしまった。苛立ってるのが手に取るようにわかる。こんな佐山を僕は見たことがなかった。

「おい……」
「腹減ったな。有名な豆腐料理食べようか。なんかまた、腹持ちしなさそうだな」

 と、笑みを浮かべる。無理しているのかはわからない。でも僕は、同意するしかなさそうだ。佐山は僕の手を取り、先を急いだ。



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