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第2部

第38話 古都旅情 2

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 八坂神社にお参りして、石畳の路地を歩く。僕らはラフなシャツにストレートパンツを合わせた装い。短めな丈も脚が長い佐山は良く似合うんだよな。

 日が落ちるより前にホテルを出た僕らは、ネットで人気のあったカフェでスイーツを食べた。京都らしい和風パフェ。めっちゃ美味しかったよ。
 佐山はビール好きなのに甘味にも目がなくて、子供みたいに頬張ってた。そういうところも心くすぐられるんだよね。

「涼しくなったら出歩くっての。みんな同じこと考えるんだな」

 サンダルをぺたぺた言わせながら佐山。そりゃそうだ。でも、泊まり客だけだろうから、これでも日中よりは少ないんじゃないかな。それにすれ違うたび漏れ聞こえる関西弁が、旅情感を増してくれて人がいるのも悪くない。

「いいじゃん。誰もいなかったら、寂しいよ。楽しそうな笑顔見てるだけで、ほんわかする」
「ふううん。ま、俺もあんたのホンワカしてるの見てるだけで幸せな気持ちになるよ」
「だろ?」

 佐山が僕の手首に触れる。自然と指を絡ませ恋人繋ぎをした。暗くなってきたから、きっと見えないよね。
 通りに面した宿や店に灯りがともる。なんとも幻想的な雰囲気になってきた。そぞろ歩く観光客には浴衣の人もいて、古都の情緒溢れる風情だ。


 せっかく京都に来たんだからと、京料理に挑戦してみた。古民家のような趣のあるお店は路地を入ったところにひっそりと客を待つ。
 僕らの前には、見た目も綺麗な芸術品のような料理が並んだ。味も上品でおいしい。でも。

「旨いけど、腹が膨れん」

 言うと思った。実は僕もだ。コースだから品数はかなりあったんだけど量がない。確かに育ちざかり? の、佐山には足りないだろうなあ。

「またカフェに行けばいいよ。居酒屋でもいいし」
「だな。まだ宵のうちだ。もう少し歩こうぜ」

 京料理をさらっと平らげて、僕らはまた古都の街を歩いた。佐山はそこらの店で串カツなんかを買い食いしてる。僕もソフトクリームを食べ歩きしてしまった。
 なんだか、近所の祭りに来てる気分だな。それでもやっぱり佐山と二人でいると満ち足りて楽しい。

 居酒屋のカウンターで育ち盛りの腹を満たし、僕らは鴨川へ向かう。佐山が河川敷を歩きたいというので、遅い時間だけどやってきた。
 川沿いに並ぶ川床の店は、こんな時刻でも多くの人でにぎわっている。そして河川敷では……。

「ホントだ。一定の距離を保ってカップルが座ってるな」

 何かのテレビ番組で見た通りの情景がそこにはあった。鴨川の土手沿いには、どうやって計ったのかと思うくらい、正確な間隔でカップルが座っている。大体2メーターくらいだろうか。

「あ、あそこ空いてる。座ろうぜ」

 佐山が僕の腕を取って足早に向かう。そこには、もう帰ってしまったのか、ちょうど一組分の空間があった。

「おまえ、それがやりたくてここに来たのか?」
「そうだよ。河川敷の恋人同士。祇園に来たならやらなきゃ」
「なんの法則だよ……あ、ありがと」

 佐山は僕のためにハンカチを引いてくれた。妙なところに気が回る奴だ。僕もお返しに自分のをあいつのために引いた。

「川の近くだからか涼しいな」

 僕らは他のカップルと同じように寄り添う。佐山の左手が僕の左肩に置かれたら、僕は頭をゆっくりとあいつのほうへと倒してみた。
 あいつの息が僕の鼻先にかかる。かすかな酒の匂いすら、心地よい。

「気持ちいいな」

 佐山が僕の耳のそばでそう呟く。低音で甘い声が、厚い胸板で反響して僕の鼓膜を揺らす。それだけで僕はおまえという深い沼に溺れていくよ。

「しばらく……」
「ん? 何か言ったか?」
「もうしばらく、このままでいたい」

 僕が小声でそう囁くと、佐山はふっと息を漏らす。

「あんたの気のすむまで……俺も、そうしたいから」

 僕の肩を抱く腕に少しだけ力が入る。僕らはそのまま何も言わずに、ただ、ゆらゆらと光漂う川面を眺めていた。



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