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第2部

第29話 無人島

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 リハの合間のプロモーション。出来るだけ佐山に負担が掛からないようにとは思うけど、ソロでやってる分、何もかも一人で請け負うのでそうもいかない。
 ただ、あいつは僕と付き合ってから、風邪はおろか、具合が悪い様子を見せたこと、一度もなかった。本人は、僕とえっちすることが健康の秘訣だとか言って譲らないんだけどね。

「だって、あんたとえっちするためには元気でないとな。だから、俺はいっつも元気なんだ」

 おまえのあそこもいっつも元気だよな。



「今日の雑誌のインタビューでさ。無人島に何を持っていくかって聞かれたんだよ」

 本日のプロモーションに、雑誌のインタビューがあった。まあ、よく聞かれる題材ではあるけれど、まるでアイドル扱いだな。大丈夫か。

「なんて答えた?」
「もちろん、恋人。つまり、あんただ」

 ……それは反則だ。それでは無人島じゃなくなるし、第一僕は『モノ』ではない。

「そしたら、『モノ』にしてください、って言われてさ」
「当然だな」
「モノとか思ってないよ。もちろん。でも、俺はあんたと離れることは考えたことないからさ。で、この質問はなかったことになった」

 そうか。僕が少し席を外した間にそんなやり取りが。
 インタビュアーは馴染みの記者さんだったけど、僕ににやついた表情を向けてたのはそういう理由だったんだ。まあ、彼もこの質問は佐山にとって愚問だったと思い知ったろう。

「でも僕、サバイバルに向いてないから、無人島じゃ役に立たないぞ」

 別にお坊ちゃまってわけじゃないけど、キャンプとか苦手だし、あまり経験がない。海外にも、欧米の都市、所謂文明の地を中心に旅行していた。

「そんなの、俺に任せておけ。俺はどこでも生き延びられる」

 佐山とキャンプに行ったことはないけど、何となくそれは理解できる。なんでも器用にやれる奴なんだ。

「金がなくて、ほぼホームレス状態のときもあったからな。でも、ちゃんと生活できてた」
「え? それは初めて聞いたな」

 佐山は過去の話をしたがらない。だからこれはいい兆候なのかも。高校卒業後、音楽とバイトの日々だったころの話かな。

「そうだっけ? 俺、マッチなくても火を起こせるよ」

 どこの原始人だよ。てか、そこまで? 

「無人島でも、倫に苦労はさせない。ちゃんと家を建てて、食べるものも調達する。たとえ子供ができても楽しく暮らせる」
「いや、子供はできないだろう」
「例えばだよ。でも、悪くないな。無人島で二人きり。うん、楽しそうだ」

 なんだか佐山の思考に僕まで惑わされる。無人島(二人いるところで無人島じゃあないけど)、ヤシの木の下にあいつが作った家があって、僕はそこで料理なんかしてる。佐山は海で釣った魚を持ってきて……、『今日は大漁だったぞー!』と笑顔満載で叫ぶ。

「夜になったら、降るほどの星空が広がって……」

 あ、やっぱり、妄想はそこにいきつくよね……。佐山はあがりっぱなしの口角に、三日月みたいな双眸を僕に向けた。僕は生えてもいないのに、髭面の佐山が思い浮かぶ。

「無人島、最高!」

 そう雄たけびを上げて、佐山は僕をソファーに押し倒す。おまえさ、それ、無人島でなくてもいいんじゃないか?

「無人島でも、髭剃ってくれ……ん、もう……」

 僕の言うことなんて、気にもせず、エロ唇を押し付けてくる。野生と化したおまえを受け入れるのは、多分僕しかいないよな。確かに、無人島には僕を持っていかないと、おまえの死活問題だろう。

「あ……んっ、はあっ」

 妄想で火がついたあいつは手が付けられない。乱暴に衣服を脱がすと僕の体に身を沈める。そして、大きな手と柔らかな舌で僕の下腹部で硬くなってるものをもてあそぶ。
 あいつの癖っ毛を指に絡ませて僕は喘ぎ声をあげた。やがて僕らは互いに一つになりたがって……。

 ――――僕も……無人島にはおまえと行くよ。おまえなしでは、生きていけそうにないから。

 無人島の妄想は、佐山をより一層元気にさせてくれた。あの記者さんも、そんなことに貢献したとは思いも寄らなかっただろうな。




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