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第2部
第27話 リクエスト
しおりを挟む「オーラスは『黄昏』に決めてんだ」
事務所から帰宅してすぐ、佐山はセトリに着手し始めた。今日、みんながやりたい曲やアレンジしたい曲を提案したので、それをまとめている。
「明日も時間あるから、ゆっくり考えろよ」
佐山が作曲した曲なら、他のアーティストさんに提供したのも演奏できる。そのなかには、オリコンチャートに入ったのもあるし、選択肢は広いんだ。
リビングのソファーで、モバイル片手に佐山はあれこれ順番をいじっている。こういうの、絶対楽しいよね。
僕は邪魔しないようにあいつの珈琲をテーブルに置き、黙って隣に座った。
「今日はさ……」
僕が座るとすぐ、佐山はモバイルををテーブルに置いた。コーヒーカップを持ち、僕のほうを見る。
「どうした?」
「あんたが楽しそうでホッとした。俺の気のせいかもしれないけど、最近、元気ないように思っていたから」
「え……」
やっぱり感づいていたのか。そのせいかな。昨日まで、あいつはいつもよりは淡白だった気がする。あくまでもいつもに比べてだけど。
「俺、きっとあんたに嫌な思いさせてたんだよな」
「違うよ……僕が勝手に……」
僕はやっと自分がもやっていたことを口にすることができた。多分それは、自分なりに思い過ごしだと決着つけたからだろう。僕がぽつぽつと言いつなぐ言葉を、佐山は黙って聞いていた。
「参ったなあ……」
佐山はそう大きな息を吐くと、僕の肩を抱いた。
「マコには全くそんな感情ないよ。あいつの腕やらフィーリングは好きだけど、それ以外は何もない」
僕の頬にキスをして、しっかりと腕に抱く。
「でも、誤解させたな。レコーディング最終日には、あいつが勝手に来たんだ。こっちに来る用があったからって言ってたな」
そうなんだ。いや、ちょっとそれ引っかかる。
「それに、俺、トンチンカンな勘違いをして。まるきりアホだな。でも、マジで心配してたんだ」
ナンパから救った彼女のことだ。僕は今の今まで、また忘れていたけど。
「なあ。倫。マ……、八神のこと、嫌だったら変えてもいいんだ。俺は別にそこまで拘らない」
「え!? いや、それはダメだ。今度のライブで、あのベースとの掛け合い、超かっこいいじゃないか!」
「そんなの。誰とでもできる。俺を誰だと思ってるんだ」
僕は慌てて体を離し、そう訴える。僕のヤキモチのせいで八神さんを変えるだなんてとんでもない。彼にも失礼だし、僕も嫌だ……。そんなカッコ悪いこと、したくない。
「いや。それはやっぱりダメだ。僕のプライドのためにも。彼に……何か問題がないのなら、そのままにしてくれ」
「そうかあ? 倫がそう言うなら……まあ、確かにあいつの音は好きだし、テクもあるからな」
頷く僕を佐山は再び抱き寄せた。
「でもな。あいつじゃなきゃダメな理由は何もないからな。それだけは知っておいてくれ」
「うん……。佐山……」
「ん?」
「今日、僕のリクエスト、採用してくれて嬉しかった……」
ふっと、佐山が笑みを漏らす。
「当たり前だ。あんたのリクエストなら、国歌だって演じてやる」
「あはは……それはいい……」
あいつの右手が僕の顎にかかる。柔らかい息が僕の唇にかかると、弾力のある唇がそれに遅れて乗せられた。
ゆっくりと味わうように食むと、熱い舌が割り込んでくる。僕はやつの蠢くものに自分のを絡め、なお一層強くあいつの背中を抱きしめた。
「電車の続き、しような」
「うふふ……」
相変わらずの変態だな。でも、そんなおまえが好きだ。
佐山は僕をソファーに押し倒す。薄着の僕から素早く服を剥ぐと、僕の体に大きなその身を沈める。
「んん……う……」
こんなふうに気持ちも体もあいつに溺れるのは、久しぶりな気がする。佐山は今夜ばかりはいつも以上に深く深く、僕を愛してくれた。
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