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第2部
第24話 意地悪な感情
しおりを挟むなんで、レコーディング最終日に彼はスタジオに来たんだろう。たまたま僕のいないときに限って。それともたまたまじゃない? 佐山が呼んだのかもしれない。深い意味はない。ただ、合わせてみたかったってだけで。
だけど……それって、リハーサルで十分間に合うことだよな……。
「ん? どうした? ぼぉっとして。まさか助けたお姫様のこと考えてないだろうな?」
佐山はからかうような表情で僕を見る。その目は探るというより、余裕を湛えている。
「そんな……わけないだろ」
「え……マジだった……?」
僕の応じ方が、あいつにとって思ってもみなかったんだろう。僕は違う意味で笑いに変えられなくて、ついマジになってしまった。
あいつが言うような、女の子のことなんて、露ほど脳裏に浮かんでなかったよ。だけど、佐山は少し狼狽えた。
「倫、その……」
「なに?」
その姿に、なぜか意地悪な感情が顔を出した。そんな必要ないのに。正直に、今なぜ黙ってしまったのか言えばいいのに。僕は言えなかった。
「あんたは元々ノンケだったし……気になるときもあるかもしれんよな。青山みたいに、普通に結婚できるし……」
何を言ってるんだ。こいつは。僕の気持ち、わからなすぎる。
「あきれたな。もういいよ。もう寝る」
あいつは僕が何を気にしてるのか全然わかってない。それとも、やっぱり僕の思い過ごしなんだろうか。
だけどこの時、僕は別のことを考えていた。佐山が僕を心配したり、やきもち妬いてくれることを期待してしまったんだ。あいつは僕が寝室に入っていくのを、黙って見送った。
その夜、僕が寝たふりをするベッドに佐山が入ってきた。背を向けて寝るなんて、喧嘩したときくらいだ。その喧嘩だってめったにしないし、大概が馬鹿みたいなことで、あいつがバックハグしてキスして……仲直りする。
「倫……寝てるのか?」
耳元で佐山の声がする。ここでちゃんと答えないと、きっとこのままギクシャクしてしまう。佐山はいつものように僕を背中から抱きしめる。
「ごめんな。あんたを怒らせるつもりはなかったんだ」
それはどういう意味? わかって言ってるのかな。それとも、まだ、僕が顔も思い出せない彼女のことを考えているとでも思っているのか。
「いいって言ったろ」
僕は胸の前で組まれたあいつの手に触れる。
「そうだな……」
多くは語ることなく、佐山は僕の頬にキスをする。よくわからないけど、何故か涙が出てきた。胸が痛くて、苦しい。
「キスさせてくれないのか?」
泣いてるところ見られたくない。部屋は暗いけど、ばれてしまわないかな。僕がそう逡巡している間を、佐山が待てるわけがない。僕の顎を持ち上げ、唇を重ねた。
不躾な唇は、こんな時でも僕の心を乱す。このキスを、誰にも味わさせたくないよ。僕の、僕だけのものだ。
僕はあいつの背中に腕を回し、いつもよりずっとずっと強く力を込めた。
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