【R18】僕とあいつのいちゃラブな日々

紫紺

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第2部

第7話 夢の中で

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 スタジオには、いつものようにメンバーが集まっていた。思い思いに音を出したりチューニングしたり、長髪で最年長のドラマー塩谷さんが、リズムを叩き始めた。それにベースの八神さんが呼応する。

「いいねー。やっぱりあんたらは最高だよ!」

 佐山が興奮した面持ちで叫んでる。彼らとは相性いいみたいだ。グルーヴがレベルアップしてるのがわかる。佐山が生き生きするわけだ。

「まさにノッてますよね」
「だなっ」
「あれ、佐山、おまえのマネさんは?」

 え? 僕はここにいるけど?

「別にいなくても大丈夫じゃないですか」
「そうだな。あんたらがいれば俺は大丈夫だ」

 そんな……メンバーに言われるのも辛いけど、おまえにそんな風に言われるなんて。

『さやま……』

 な、なんだ、声がでない……。喉が痛くて声が出ないよ。佐山!



「倫、どうした? 苦しいのか?」

 僕が宙にさまよわせた手を、よく知った大きな手が掴んだ。そしてあいつの心配そうな声が。

「あ……佐山」
「大丈夫か? うなされてたぞ」

 夢だったのか。怖い夢だった。

「あれ、ここは?」

 僕らのアパートじゃない。どうやら病院のようだ。真っ白なカーテン、布団、そして僕の腕には点滴がつけられていた。

「倒れたから、救急車呼んだんだよ。生きた心地しなかったよ」
「救急車。ごめん……心配かけたな」
「謝るのは俺の方だよ。医者が過労じゃないかって。あんたが無理してるのわかってたのに」

 過労? 馬鹿な。そんなわけない。でも、楽しくて張り切りすぎて睡眠不足になってたかもしれない。

「おまえのせいじゃない。僕が勝手にはしゃぎすぎたんだ。レコーディング、キャンセルさせて本当にすまない。明日からは、予定通り続けてくれ」
「いや、でも……」
「頼むよ。僕は本当に大丈夫だよ。点滴のおかげか、気分も良くなってる」


 医者からは点滴が終わったら帰宅してよいと言われた。
 けど、若くて無理が利くのが逆に良くない。少しペースを落とせとのご指示だ。でもそんなわけにいかないじゃないか。あんな、夢を見てしまったから余計に。


 病院には、水口さんが来てくれた。点滴が終わって、僕らは彼の車に揺られ家路についた。後部座席、毛布にくるまった僕の肩を、佐山が長い腕で抱いている。その頃には微熱くらいになってた。

「市原さんは、2、3日自宅で休んでて下さい。事務所から応援寄越しますから。気にしなくて大丈夫ですよ」
「でも……」
「でもじゃない。平熱になるまでは外出禁止だ」
「そう言う佐山君はわかってるよね。市原さんいなくても、しっかりやってくださいよ」

 水口さん、完全に佐山は子供扱いだな。でも、僕も心配だよ。

「何言ってんですか。俺は倫がいないとダメですよ」

 おい。水口さんの前でなに開き直ってんだよ……ちょっと嬉しいけど。

「本心で言えば明日もずっとそばについていたい。だけど日程が詰んでることは俺もわかってます。倫が、俺にレコーディングに行けって言うのも。だから、俺は自分で出来ることをします。その代わり……明日、俺らのアパートに誰か頼りになるの寄越してもらえませんか? それをしてくれれば、俺は安心してスタジオで頑張れる。病気の倫を、一人にできない」

 佐山。いくらなんでも、それは大げさだよ。僕は子供でもないし重病でもない……ただ、凄く嬉しいよ。

「相変わらず、天晴れですね。いいでしょう。スタッフに医学部出身がいるんで彼に頼みましょう。で、スタジオには念のため私が行きますよ」
「ええっ? み、水口さん、ありがとうございます! ごほっ」

 僕はあまりに嬉しくて車のなかで大声を出してしまった。水口さんになら安心して任せられる。よし、明日中に絶対治すぞ。なんだか気力が沸いてくる。現金なものだ。

「何と言っても、佐山くんはうちの事務所のイチオシですからね。市原さん、明日はゆっくりしてください」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます。佐山、ごめんな」

 僕がすまなそうに言うと、あいつは口角をふっと上げた。

「気にするな。離れていても俺らはいつも一緒だ」

 僕の耳元で佐山が囁く。不安な夢が心をざわつかせたけど、低音で甘い声は安心をくれる。あんなこと、おまえが言うわけないのにな。

『いなくても大丈夫じゃないですか』

 夢の中で言ったのは、八神さんだった。彼だって、そんなせりふを吐くわけがない。熱に浮かされてたと言え、僕も失礼だな。

 ――――だけど……なんだか妙に生々しい夢だった。

 僕は佐山の誘導のまま、あいつの肩に頭をのせる。まだ少し眠い。この腕のなかは僕が心から休める場所だ。僕はいつの間にか眠りに落ちた。





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