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第1部

第86話『愛し方』

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 スピードが大事。佐山の言った意味がよくわかった。すっぱ抜かれる形で表面化するより、こちらから先んじたほうが断然印象がいい。
 全部が全部ウェルカムじゃないにしろ、佐山からカミングアウトした形になったことで、表立ったバッシングを受けることはなかった。

 佐山の各サイトでも、雑誌のインタビュー記事をリンクする形で公表した。インスタやツイッタでは好意的なリプをもらえている。

「ま、そんな有名人でもないんだ。世間も騒がんさ」

 確かにそうなんだけど、知る人ぞ知るミュージシャンだからな。でも、事務所の社長にもきちんと説明して、この方法をやり遂げたおまえは凄いよ。
 僕はおろおろするばかりで、今度ばかりはからきし役に立たなかった。

「マネージャー日記はなんて書くんだ? 僕がその人ですって書く?」

 例のインタビューでは、後姿とはいえ、僕も登場することになった。記事にはっきりとは記載されてないが、マネージャーだと匂わしてもいた。でも、僕はもう決めていた。

「楽しみにしてて」

 あいつは作業部屋でギターをつま弾いていた。例の黒いピックで。佐山はライブでも使ってくれているんだ。
 クリスマスライブはもう三日後に迫っていた。僕は佐山の少しくせっ毛の髪にキスをし、部屋を出ようと踵を返した。

「あ、こら待て」
「なんだよ。邪魔しちゃ悪いと思って……んんっ」

 強引に腕を引っ張られ、ギターの代わりに奴の膝に乗せられる。そしてあいつのエロ唇が襲ってきた。

「邪魔じゃない」

 キスをしたままセータをまくり上げ、体に手を滑らせる。もう片方の手が、僕のファスナーへと移った。

「うわっ……ま、待てよ……」

 思わず体を捩るとあいつの膝から転がり落ちそうになった。

「待たない……」

 防音室は佐山の一人部屋だし、機材やギターで所狭し状態になっている。いつもみたいに床に転がれない。僕はあいつが座っている作業用椅子に再び持ち上げられた。

「俺、ここでのあんたの愛し方、考えたんだ」
「はあ? 全くおまえは……」

 相変わらず変態……。呆れながらも、あいつらしくて僕は嬉しかった。あんまりカッコよすぎるのも考えものだ。贅沢かな。
 佐山は熱いキスを僕に浴びせ、その『愛し方』を披露する。僕らの服が椅子の下に脱ぎ捨てられ丸まっている。それを横目で見ながら僕はあいつの膝の上で身もだえた。

「んんっ……あぁ……」

 あいつの愛撫を受け、僕はまた至福の時を迎えてしまう。機材にずっとあたってた背中がちょっと痛かったのは黙っておこう。

 日記には、僕の正直な気持ちを書こうと思っている。あいつをどんなに愛していて、大切にしたいと思っているか。ただ、さすがにこんな変態行為は書けないけどね。



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