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第1部
第83話 悪い予感
しおりを挟むクリスマスプレゼントはブランドのシャツにした。すごくお洒落でカッコいいんだ。ネットで見かけた時から、これを佐山に着せたら似合うだろうなって、ずっと思ってた。カウントダウンライブで着てくれるといいな。
リハーサル中、楽屋の前でケータリングの準備をしていると、マネージャー仲間の青山君がいつになく真剣な表情でやってきた。
「市原さん!」
「あれ、青山君、お久しぶり。どうしたの? 何かあったの?」
「それが……その様子だと、市原さんの耳には入ってないようですね」
ヴィジュアル系バンドのマネさん青山君とは、ツアーでご一緒してから時々連絡を取り合ったりしている仲だ。いつも有難い情報をくれるんだけど、わざわざ会いにくるなんてよっぽどのことかな。
僕は嫌な予感を抱えながら耳を傾けた。でもそれは、予想にもしないことだった。
「実は、音楽マスコミ業界で、佐山さんと市原さんの関係が噂になってるんです」
え? 何を今更。って思うかもしれない。でも、僕らは現場の人間には隠してはいないけど、ファンはもちろん、マスコミには公表していない。僕らの関係、つまり佐山の恋愛事情は取材でもNGになっている。
僕らは恥ずかしいことをしているつもりはないけれど、世の中のマイノリティーで、いい感情を持っていない人もいるのは承知している。だから、取り立ててそれを伝えることはしていなかったんだ。
「そうか……でも、いずれはわかることだろうしな……」
僕はどう答えていいかわからず呟くと、青山君が重ねて言った。
「これは僕の裏情報ですけど、佐山さん、柏木プロデューサーと何かありました?」
「えっ……」
今の今まで忘れていたその名前。聞いてからも思い出すまでに少し時間がかかった。例の、僕に薬を盛った変態プロデューサーだ。
「ああ、ちょっと……」
「やっぱり……」
「どういうこと?! 青山君、知ってること全部教えて!」
詰め寄る僕に、怒らないで聞いてください。と、前置きをして、青山君は教えてくれた。
ロック畑からマイナーなジャンルに移った佐山。イケメンギタリストではあるけれど、アイドルでもなんでもないし、彼の趣味嗜好がそれほど活動に支障をきたすことはないはずだ。それに、多くのアーティストが、佐山がゲイだなんて周知の事実。今更感が半端ない。
ただ、ミニアルバムの成功から徐々にマスコミへの露出も増えた。表に大きく出なくても、この業界で成功を収めつつあるのが目に見えてきた。それをよく思わない人物が現れた。それが柏木だ。噂の出元は彼というのが青山君の確かな(?)情報。
彼はロック界では重鎮だが、佐山がいるジャンルではそうでもない。それでもマスコミ業界とは深いつながりがあった。彼の力で、少しでも佐山の成功に水を差してやる。そんな思惑が働いたのではないか。と青山君は考えている。
どの程度の打撃があるかは不明だけど、歓迎されないだろうことは予測できた。伝えられ方に悪意があれば、ファンを裏切ることにもなるかも。
それにいくら佐山に実力があっても、マスコミの宣伝力がないと活動の場は狭まれるし、一層の飛躍は望めない。作曲の依頼にも影響があるかもしれない。
「そうだね。懇意にしている雑誌さんやラジオ局から取材や後援がなくなるのは痛いな……」
それにしても、柏木の野郎。全くなんてしつこい奴なんだ。こっちは忘れてやってたというのに!
「青山君、教えてくれてありがとう」
「いえ、僕の取り越し苦労ならいいんですけど。僕はお二人を応援してますから。佐山さんのギター、好きなんですよ」
僕はもう一度頭を下げ、お礼を言った。
どうしよう。僕とのことで、佐山が今後の仕事干されでもしたら……。とにかくこのことを佐山に伝えないと。
スタジオに戻ろうとした僕に、2件のメールが同時に入った。僕らの事務所と「GUITAR FAN」の記者さんからだった。
つづく
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