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第1部
第79話 ありがとう
しおりを挟む背後に張り付いた僕に気付き、佐山が足を留めた。
「どうした? 酔ったのか?」
「いや……おまえが好き過ぎて、どうにかなりそうだから」
ぴくりと体を反応させる佐山。そして僕の首に片腕を回して背から引き離し、肩を抱いた。
「奇遇だな。俺もだ」
目の前に佐山の綺麗な顔があった。口角を上げ僕を見つめている。黒曜石みたいな瞳が眩しい。
「やっぱり、酔ったみたい」
僕は佐山に寄りかかる。あいつは笑みを漏らし、僕を抱きかかえるようにして歩いてくれた。
ビジネスホテルのツインの部屋。狭いシングルベッドに二人くっついて横になる。佐山の甘くて熱いキスが僕をピザのチーズみたいに蕩けさせていく。
「あふっ……んん」
別の生き物のように僕の口の中で暴れるあいつの舌。僕は息をするのも惜しんで絡みついた。体がふわふわしてどこかに飛んで行ってしまいそう。それを引き戻すように、佐山が僕を抱きしめた。
あんな風に、言ってくれて嬉しかった。それをどう表現していいのかわからないくらい感動してるんだ。僕は佐山を好きになって、本当に幸せなんだよ。
「佐山、ありがとう」
「ん? なにが?」
「何でもない。全部だよ」
僕はあいつの胸に顔を埋める。逞しくて引き締まった胸板が愛おしい。佐山は僕の頬に口づけ、耳へと移動する。
「あんたの家族に会えて嬉しかったよ。俺のほうこそ、ありがとう」
僕は小さく頷いた。
「んっ……あっ」
佐山の囁きが終わると、あいつは耳を舌でなぞり、柔らかいところを軽く噛む。僕らはなお一層お互いの体を密着させる。佐山の体が僕の下半身へと降りていく。甘く激しい夜が更けていった。
翌朝、僕らは遅めの朝食を摂り、折角都心に来たのだからと、少し買い物をして家路に着いた。妹は今日、東京在住の友達と遊ぶらしい。
最初は面倒と思ったけれど、やっぱり会えて良かった。何より、佐山と仲良くなってくれたのが嬉しかった。こんなふうに家族になっていけたらいいんだけどね。
――――認めて欲しいとは言わないけれど、信じて欲しい。
佐山の言った通り、一足飛びにはいかないんだ。だから一つ一つ、急がずゆっくりいけばいいんだよね。
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