上 下
84 / 208
第1部

第78話 信じてほしい。

しおりを挟む


 折角田舎からやって来たのだ。多少なりとも自慢できる場所と思い、各サイトで高評価のイタリアンを予約した。夜景が綺麗だと記事にはあるし、妹もお気に召すだろう。

「初めまして。妹の市原みおです。いつも兄がお世話になっています」
「いやあ、世話になってるのは俺の方だから。さすが倫の妹さん、美人だね」

 なんて、どこかがかゆくなりそうな挨拶を済ませ、僕らはディナーを始めた。田舎者丸出しの妹は夜景や料理にテンションが高い。喜んでくれたみたいでとりあえずホッとした。

 今日は僕らにも嬉しい話があり、気分は上々だ。実は、社長が僕らの提案を受けてくれ、正月明けに海外に行けることになったんだ。やった!

「私、ミニアルバム買いました! すごいカッコいい曲ばかりで!」
「え! 本当? それは嬉しいなあ」

 ホントかよ。あいつにそんな趣味があったとは思えないけれど。でも、社交辞令としても嬉しいや。妹は何枚か佐山にサインを書かせてたから、友達に好きな人でもいるのかもしれない。

 澪と佐山はすぐに仲良くなって、ディナーの後も場所を変えて飲み続けた。予想はしてたし、願望でもあったけど、なんだか複雑な気分。

「お兄ちゃん、佐山さんってホントに素敵な人だね」

 佐山が席を外した時、澪が僕にそう囁いた。

「ん? そうだろ。ふふん。それより、父さんたちは元気にしてるか?」
「変わんないよ。でも、お母さんがたまにお兄ちゃんのこと心配してるから、連絡してあげてね」

 母親にはそれでも時々近況報告はしていた。もちろん佐山がソロデビューしたことも。だけど、最近忙しくて連絡していなかったな。

「わかった。ありがとな」


 結局その夜は電車がなくなるまで飲んでしまい。僕らも新宿で泊ることになった。ただし、妹よりもワンランク下のシティホテルだが。

「お兄ちゃん、幸せそうだね」

 別れ際、澪が言う。僕は酔いも加わってこう返した。

「そうだな。幸せ過ぎて怖いくらいだ」
「佐山さんが言ってたよ。お兄ちゃんは、大切な宝物だって。一生大事にするって」
「そんなことを……佐山が」
「うん。だから、認めて欲しいとは言わないけど、信じて欲しいって」


 ホテルのロビーまで澪を送り、僕らは徒歩で自分たちのホテルに向かう。妹が教えてくれた佐山の言葉が脳内で繰り返される。心臓が打ち逸ってどうにかなりそうだ。
 あいつの揺れる背中が涙でぼやけてきた。抱き着きたい衝動を抑えきれず、僕はそっとあいつの背中にくっついた。



つづく



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

処理中です...