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第1部
第78話 信じてほしい。
しおりを挟む折角田舎からやって来たのだ。多少なりとも自慢できる場所と思い、各サイトで高評価のイタリアンを予約した。夜景が綺麗だと記事にはあるし、妹もお気に召すだろう。
「初めまして。妹の市原澪です。いつも兄がお世話になっています」
「いやあ、世話になってるのは俺の方だから。さすが倫の妹さん、美人だね」
なんて、どこかがかゆくなりそうな挨拶を済ませ、僕らはディナーを始めた。田舎者丸出しの妹は夜景や料理にテンションが高い。喜んでくれたみたいでとりあえずホッとした。
今日は僕らにも嬉しい話があり、気分は上々だ。実は、社長が僕らの提案を受けてくれ、正月明けに海外に行けることになったんだ。やった!
「私、ミニアルバム買いました! すごいカッコいい曲ばかりで!」
「え! 本当? それは嬉しいなあ」
ホントかよ。あいつにそんな趣味があったとは思えないけれど。でも、社交辞令としても嬉しいや。妹は何枚か佐山にサインを書かせてたから、友達に好きな人でもいるのかもしれない。
澪と佐山はすぐに仲良くなって、ディナーの後も場所を変えて飲み続けた。予想はしてたし、願望でもあったけど、なんだか複雑な気分。
「お兄ちゃん、佐山さんってホントに素敵な人だね」
佐山が席を外した時、澪が僕にそう囁いた。
「ん? そうだろ。ふふん。それより、父さんたちは元気にしてるか?」
「変わんないよ。でも、お母さんがたまにお兄ちゃんのこと心配してるから、連絡してあげてね」
母親にはそれでも時々近況報告はしていた。もちろん佐山がソロデビューしたことも。だけど、最近忙しくて連絡していなかったな。
「わかった。ありがとな」
結局その夜は電車がなくなるまで飲んでしまい。僕らも新宿で泊ることになった。ただし、妹よりもワンランク下のシティホテルだが。
「お兄ちゃん、幸せそうだね」
別れ際、澪が言う。僕は酔いも加わってこう返した。
「そうだな。幸せ過ぎて怖いくらいだ」
「佐山さんが言ってたよ。お兄ちゃんは、大切な宝物だって。一生大事にするって」
「そんなことを……佐山が」
「うん。だから、認めて欲しいとは言わないけど、信じて欲しいって」
ホテルのロビーまで澪を送り、僕らは徒歩で自分たちのホテルに向かう。妹が教えてくれた佐山の言葉が脳内で繰り返される。心臓が打ち逸ってどうにかなりそうだ。
あいつの揺れる背中が涙でぼやけてきた。抱き着きたい衝動を抑えきれず、僕はそっとあいつの背中にくっついた。
つづく
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