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第1部

第74話 何度も恋に落ちて

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 佐山が気分転換したいというので、近くの海岸まで散歩に出た。海水浴の季節じゃないけれど、浜辺にはウェットスーツを着込んだサーファー達で賑わっている。

「いつもベランダから眺めるばかりで、歩くの初めてだな」

 太陽の光が波に反射して煌めいている。佐山は眩しそうに手を翳す。彫の深い顔に影が映り、映画の1シーンを見るようで僕はドキリとした。

「潮風が気持ちいいな」

 佐山の隣を歩きながら、僕は盗み見るように目を移す。

「どうした? 大人しいな」
「え? そんなことないよ」

 なんだか眩しくておまえを直視できない。そんなこと言えるわけないじゃないか。

「そうか? 来いよ」

 佐山は僕の腕を取ると、走り出した。

「おいっ! 待てよ」

 足元は砂浜だ。波打ち際だから、水分を含んで若干固められてはいるけど、それでも足を取られて走りにくい。僕はあいつに引きずられるように浜を走った。

「はあっ! いい運動になった!」

 佐山は防波堤まで一気に走り、座り込んだ。背中には波に合わせた様に湾曲した壁がそびえている。僕もぜえぜえ言って、あいつの隣に座った。

「足が重いっ」
「なんだ、情けないな。倫は俺より若いのに」
「一個だけじゃないか。はあ、もう……」

 僕は腕を後ろにして体を支え、天を見上げた。秋らしい真っ青な空が広がっている。ふうと息をつくと、僕の視界が遮られる。佐山だ。

「なに?」

 なんて聞かなくても、あいつがしたいことなんてわかってる。佐山のエロ過ぎる唇に笑みが宿ると、僕の顎に手をかけクイって上を向かせた。
 ふわりと奴の唇が僕のそれに重なっていく。ゆっくりと味わうように食むと柔らかな舌が僕の唇を割って入って来た。

「んん……」

 蠢く舌に僕は自分のを絡める。潮風に吹かれたせいか、少し塩辛く感じた。あいつの息遣いが荒くなっていく。僕の鼓動がそれと共に忙しなく打った。

「戻ろうか。俺達の城へ」

 ようやく唇を離した佐山が耳元で囁く。

「うん……」

 僕はなんだか恥ずかしくなってあいつの顔が見れず、俯いたままそう言った。好きだって気持ちが溢れすぎちゃって、照れくさかったんだ。
 僕はおまえに何度でも恋に落ちてしまう。こんなちょっとした散歩だって、十分に僕の心を揺さぶるんだ。

「ん? 顔、上げてくれよ。あんたの顔が見たい」

 佐山がもう一度、僕の顎に手をかける。僕は朱に染めた頬のままあいつの視線を受ける。

「綺麗だ……ため息が出来るほど」
「何言ってんだよ……」

 佐山は立ち上がると、僕の手を取った。

「行こう。今すぐ抱きたい」

 僕は黙って頷く。おまえの言葉が嬉しくて、胸がいっぱいになったよ。
 防波堤を乗り越えて道路に出ると、息せき切って僕らのアパートに向かう。エレベーターに乗るとすぐ、いつものように熱くて甘いキスを交わした。

「俺は何度もあんたに恋をする。何度も恋に落ちてるよ」

 僕が海岸で思ったのと同じことを佐山が言う。どうして通じてしまうんだろう。僕の心臓はまたあいつに撃ち抜かれる。
 早く肌を合わせたい。佐山に抱かれたい。お互いのテンションが上がるのがわかる。部屋の鍵を開けるのがいつも以上にもどかしかった。




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