80 / 208
第1部
第74話 何度も恋に落ちて
しおりを挟む佐山が気分転換したいというので、近くの海岸まで散歩に出た。海水浴の季節じゃないけれど、浜辺にはウェットスーツを着込んだサーファー達で賑わっている。
「いつもベランダから眺めるばかりで、歩くの初めてだな」
太陽の光が波に反射して煌めいている。佐山は眩しそうに手を翳す。彫の深い顔に影が映り、映画の1シーンを見るようで僕はドキリとした。
「潮風が気持ちいいな」
佐山の隣を歩きながら、僕は盗み見るように目を移す。
「どうした? 大人しいな」
「え? そんなことないよ」
なんだか眩しくておまえを直視できない。そんなこと言えるわけないじゃないか。
「そうか? 来いよ」
佐山は僕の腕を取ると、走り出した。
「おいっ! 待てよ」
足元は砂浜だ。波打ち際だから、水分を含んで若干固められてはいるけど、それでも足を取られて走りにくい。僕はあいつに引きずられるように浜を走った。
「はあっ! いい運動になった!」
佐山は防波堤まで一気に走り、座り込んだ。背中には波に合わせた様に湾曲した壁がそびえている。僕もぜえぜえ言って、あいつの隣に座った。
「足が重いっ」
「なんだ、情けないな。倫は俺より若いのに」
「一個だけじゃないか。はあ、もう……」
僕は腕を後ろにして体を支え、天を見上げた。秋らしい真っ青な空が広がっている。ふうと息をつくと、僕の視界が遮られる。佐山だ。
「なに?」
なんて聞かなくても、あいつがしたいことなんてわかってる。佐山のエロ過ぎる唇に笑みが宿ると、僕の顎に手をかけクイって上を向かせた。
ふわりと奴の唇が僕のそれに重なっていく。ゆっくりと味わうように食むと柔らかな舌が僕の唇を割って入って来た。
「んん……」
蠢く舌に僕は自分のを絡める。潮風に吹かれたせいか、少し塩辛く感じた。あいつの息遣いが荒くなっていく。僕の鼓動がそれと共に忙しなく打った。
「戻ろうか。俺達の城へ」
ようやく唇を離した佐山が耳元で囁く。
「うん……」
僕はなんだか恥ずかしくなってあいつの顔が見れず、俯いたままそう言った。好きだって気持ちが溢れすぎちゃって、照れくさかったんだ。
僕はおまえに何度でも恋に落ちてしまう。こんなちょっとした散歩だって、十分に僕の心を揺さぶるんだ。
「ん? 顔、上げてくれよ。あんたの顔が見たい」
佐山がもう一度、僕の顎に手をかける。僕は朱に染めた頬のままあいつの視線を受ける。
「綺麗だ……ため息が出来るほど」
「何言ってんだよ……」
佐山は立ち上がると、僕の手を取った。
「行こう。今すぐ抱きたい」
僕は黙って頷く。おまえの言葉が嬉しくて、胸がいっぱいになったよ。
防波堤を乗り越えて道路に出ると、息せき切って僕らのアパートに向かう。エレベーターに乗るとすぐ、いつものように熱くて甘いキスを交わした。
「俺は何度もあんたに恋をする。何度も恋に落ちてるよ」
僕が海岸で思ったのと同じことを佐山が言う。どうして通じてしまうんだろう。僕の心臓はまたあいつに撃ち抜かれる。
早く肌を合わせたい。佐山に抱かれたい。お互いのテンションが上がるのがわかる。部屋の鍵を開けるのがいつも以上にもどかしかった。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。
スパダリ様は、抱き潰されたい
きど
BL
プライバシーに配慮したサービスが人気のラグジュアリーハウスキーパーの仕事をしている俺、田浦一臣だが、ある日の仕事終わりに忘れ物を取りに依頼主の自宅に戻ったら、依頼主のソロプレイ現場に遭遇してしまった。その仕返をされ、クビを覚悟していたが何故か、依頼主、川奈さんから専属指名を受けてしまう。あれ?この依頼主どこかで見たことあるなぁと思っていたら、巷で話題のスパダリ市長様だった。
スパダリ市長様に振り回されてばかりだけと、これも悪くないかなと思い始めたとき、ある人物が現れてしまい…。
ノンケのはずなのに、スパダリ市長様が可愛く見えて仕方ないなんて、俺、これからどうしたらいいの??
時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~
紫紺(紗子)
BL
大学生になったばかりの花宮佳衣(はなみやけい)は、最近おかしな夢をみるようになった。自分が戦国時代の小姓になった夢だ。
一方、アパートの隣に住むイケメンの先輩が、妙に距離を詰めてきてこちらもなんだか調子が狂う。
煩わしいことから全て逃げて学生生活を謳歌しようとしていた佳衣だが、彼の前途はいかに?
※本作品はフィクションです。本文中の人名、地名、事象などは全て著者の創作であり、実在するものではございません。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
シャワールームは甘い罠(R18)
紫紺(紗子)
BL
鮎川真砂は、ちょっとタレ目が可愛いラノベ作家。
惚れっぽくて尻軽なところが災いし、毎回恋愛で痛い目に合っている。
そんな真砂がセレブ御用達のジムに通うことに。
そこで出会ったのは、彼が自らのラノベで描いていたキャラ達にそっくりな
筋肉イケメンたち!
何事もなく終わるわけがない。
※本作はエブリスタ様でも公開中です。そちらでは、スター特典として番外編も公開しています。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
LAST TORTURE 〜魔界の拷問吏と捕虜勇者〜
焼きたてメロンパン
BL
魔界の片隅で拷問吏として働く主人公は、ある日魔王から依頼を渡される。
それは城の地下牢に捕らえた伝説の勇者の息子を拷問し、彼ら一族の居場所を吐かせろというものだった。
成功すれば望むものをなんでもひとつ与えられるが、失敗すれば死。
そんな依頼を拒否権なく引き受けることになった主人公は、捕虜である伝説の勇者の息子に様々な拷問を行う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる