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第1部
第71話 僕がマネージャーになったワケ 5
しおりを挟む図らずも、僕は佐山のツアーに帯同することになった。本番を客席の一番後方で見る。あいつは洗練された音をよりワイルドに響かせ、今夜も絶好調だ。
僕は体中でそれを受け止め、全身が痺れるほど感動した。ライトの下でギターを抱える佐山は、男っぽさの色気と少年のような眩しさが同居して僕を虜にする。ライブに来る度に魅了されるよ。
これをこれからはずっと見続けられるんだ。なんでさっさとそうしなかったのか、僕は自分の意気地の無さに自分で呆れた。
「あなた、倫さんでしょ?」
アンコール待ちの時、例の金髪美人に声をかけられた。
「あ、はい。佐山が世話になっています」
「あっははあ。なるほどね」
「なるほど?」
「ううん。昨日はごめんね。悪ふざけして。あれ見て飛んで来たんでしょ?」
悪ふざけね。僕は少しムッとしたけれど、お陰で踏ん切りがついたんだ。感謝すべきかもしれないな。
「わかってると思うけど、佐山君、何も悪いことしてないから。あの時も、酔っ払って寝てるから……でも彼、ずっと『倫―!』ってうわごと言ってたわよ」
「え……そうでしたか」
だから僕の名前がわかったのか。良かった、僕の名を呼んでてくれて(まあ、これで違う名前だったら、血祭りだけど)。
オーナーの奥様によると、酔った佐山をみんなで脱がし、キスシーンを東京の恋人に送る。というとんでもない悪戯を計画し実行したとのこと。
佐山がずっと元気がないので、これで彼(彼女?)が来てくれたら元気になるんじゃないかと思ったらしい。逆に修羅場になるとは思わなかったのか。まあ、あのふざけた写真じゃならないか。
「でも、今日の演奏聞いてわかったよ。やっぱり佐山君には君が必要だね。昨日までとは見違える、素晴らしいパフォーマンスだった」
彼女はそう言ってくれた。僕は素直に嬉しかった。控えめに言って、胸がいっぱいになるくらい。
「ありがとうございます。これから僕は、佐山のマネージャーとして二人で頑張っていくつもりです。今後ともよろしくお願いします」
「ホントに!? それはいいアイディアだね。佐山君の飛躍が楽しみだ! 頑張ってね」
アンコールが始まった。あいつのキレッキレッのギターソロがホールを再び興奮の坩堝にする。あいつに見とれて、僕はまた恋に落ちた。
この事件があってから、佐山は酒に呑まれるような飲み方はしなくなった。酔っ払ってもタクシー乗るまでは意識を保っている。その後は、僕がいれば寝てしまうことはあってもね。
「マネージャー? それでやっていけるのか? いや、それなら俺、死に物狂いで働くよ!」
僕がマネージャーになると宣言したその夜、佐山は驚いた様子だった。打ち上げはちょっとだけ参加して、早々に部屋に戻った僕らは、ゆっくりと愛し合ってた。
「そんな必要はないよ。僕がちゃんとマネジメントしてやるから。仕事も選ぶ。おまえに相応しい仕事をさせてやるから。でも、部屋代の節約のために一緒に住もう。それは、いいかな?」
「いいかなって、いいに決まってるだろう? ずっと……一緒に住みたかったんだ。お金のためじゃなかったけど……」
「で? この提案は佐山的にはOKなの?」
僕は佐山の腕に頭を乗せたまま、そう尋ねた。NOと言わせるつもりはなかったけど。
「倫になら、俺の全部を任せられる。俺はずっと……あんたのしもべだって言ってるだろ?」
佐山は半身だけ起き上がると、僕の頬を右手で包み込んだ。
「ふふ、任せろ。後悔はさせないから」
「そんなの。したことないよ、あんたに関しては」
あいつの色っぽい唇が僕の少し薄い唇を覆う。上唇と下唇を交互に食んで、舌でなぞった。
「んんっ……」
「俺らは二人で一つだから」
「一つになる?」
「なる……」
佐山は僕の上に覆いかぶさる。僕らは名実ともに一つになった。
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