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第1部
第61話 ずるい奴
しおりを挟むだらしない恰好のまま、僕は目を覚ました。足が痛い。見ると佐山が僕の太ももを枕にして寝ている。僕もあいつも何も着ていない。腹の上に毛布が乗っているが、さすがに寒い。
僕はそっと足をあいつの頭の下から抜いて、毛布をかけてやる。そしてそのままバスルームへと向かった。
酒池肉林の打ち上げの後、僕らはアパートに戻るとすぐ、本能に従った。居酒屋で一回抱き合ったけど、そんなんじゃ満足するわけがない。ミニアルバムの制作からずっと張りつめていたものがようやく終わったんだ。お互いの労をねぎらわないとね。
シャワーのノズルを捻る。勢いよく飛び出した水はまだ冷たい。ひやっと飛び去ると、そのうちに湯気が立ってきた。時間はまだ昼下がり。でも、打ち上げから何も食べていないので、さすがにお腹が減った。
これからスケジュール的にはしばらく余裕だが、引っ越しの準備がある。それに佐山には作曲の依頼が来ているのでそれをやってもらわないと。
――――早く引っ越して、あの防音室を使ってもらおう。
ラフな部屋着に着替え、僕はキッチンに立つ。パスタの材料があったので、モバイルでレシピを見ながら作業にかかった。引っ越し先は、ここほど都会じゃない。自炊の機会が増えそうだ。そう思いたつと、色々やりたくなるのが僕の性分なんだ。
「倫……何してんの……」
寝ぼけ眼の佐山が寝室から這い出してきた。いつもながらの光景だ。
「腹減らないか? パスタ作ってんだよ。おまえもシャワー浴びてシャキッとしてこいよ」
「あんた、先に入ったのか? ちぇ……」
ぶつくさ言いながらバスルームに向かっていった。気絶するまでやったんだから、もういいだろ? しばらくは……。
「あれ、美味しそうだな」
「佐山のパスタほどじゃないかもだけど、食べてみてよ」
シャワーから出てきた佐山は文字通りシャキッとしてた。スェットのボトムだけ穿いて上半身は裸にバスタオルを首からかけている。筋肉質の裸体がいつもながら眩しいや。
二人並んでパスタを平らげる。うん、悪くない。
「引っ越しの準備始めようよ。早くあっちに行って、佐山には仕事してもらいたいしな」
「むむっ、マジか。ライブ終わったとこなのに厳しいな。でも俺も早く引っ越したい。あのバスタブに倫を沈めたい」
沈めてどうすんだよ。殺す気か。
「そんで、俺の腹に乗せて足を広げさせて、こう」
「そのヤラシイ妄想を手振りつけて解説すなっ!」
僕は思わずあいつの妄想に突っ込んだ。
「ええー。俺は最近、夢でもこのシーンを見るんだよ。ほら、来いよ。ここで実演しよう」
「バスタブじゃなきゃ、その体勢はきつすぎるよ」
僕は体操選手じゃない。それでなくても股関節を柔らかくしようとジムで頑張ってるのに。ホントにアクロバティックなことばかり要求してくるんだから。大体夢にも見てるってどういうことだよ。さすがに呆れるわ。
「じゃあ、普通でいいから……」
「え……」
佐山は僕がつんけんしてるのも構わず、抱きしめてきた。あいつの逞しい胸と腕が僕を包み込んでくる。なんだよ。僕だっておまえが裸でウロウロするから、ドキドキしてるんだよ。
「ずるいな。おまえは……」
「それはお互い様だ。あんたは俺の前で息してるだけでエロいんだから……」
僕たちはまた唇を合わせる。あいつの少し厚めの唇が僕を心ごと絡めとっていく。引っ越しの準備は、これが終わってからにしよう。うん、今度こそ絶対に。
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