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第1部

第51話 ご褒美

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 ホテルの部屋に鼻歌交じりで入る。僕は首根っこ掴まれた猫みたいにあいつに連れ込まれた。もちろん、嫌じゃない。

「おっ! ここ大きな鏡がある」

 佐山は部屋に入ってすぐ、そう声を上げた。ダブルベッドの真ん前に身支度用のテーブルと大きな鏡があった。あいつの好きな部屋のタイプだ。

「シャワー浴びるよ」

 ため息交じりの僕は言う。ここまで来て、拒否る理由は何もない。ラブホじゃないから時間制じゃない。時間はたっぷりある。

「あ、俺も俺も」

 あいつがもしも犬ならば、盛大に尻尾を振っていることだろう。でも、そういうところ、可愛いや。
 ホテルのバスルームなんだから、当然小さなバスタブの中でシャワーを浴びることになる。カーテンを閉めると早速あいつは僕を抱きしめる。お湯の温度ぐらい確かめさせて欲しいよ。

「待てよ。もう……あっ……」

 まだぬるい湯のまま、あいつは僕にまた息をさせないつもりだ。あいつのセクシーな唇を押し付け僕を骨抜きにする。
 全くおまえはこんな無駄遣いして……。でも、シュウさんの新曲は好調だし、印税がかなり期待できる。佐山が頑張ったご褒美だと思えば、安いもんだよね。

 僕はあいつの首の後ろに両腕を絡ませる。肌を合わせれば、やつの厚い胸板や引き締まった体が僕の動悸を速くする。好きが溢れてくるよ。

「好きだ……」

 そう言葉にすると、あいつはそれを閉じ込めるようにまたキスをする。そして僕の耳元で蕩けるような愛を囁いた。

「俺のことだけ考えてろ。俺はあんたに俺の全部をやるから」

 鏡の間のお約束。その前でまた痴態を繰り広げる。十分に僕の喘ぐ姿を鏡に映し堪能すると、今度は僕をテーブルの上に乗せる。あいつは僕の両足を広げて両腕に抱えた。

「うわっ……ああぁっ」

 背中の鏡が僕の汗で濡れていく。腕で一生懸命自分の体を支えるんだけど、もう腕に力なんか入らなくて……。最後は失神しそうになっちゃった。


 ようやくベッドの上に転がった頃には、窓の外はすっかり夜に変わっていた。

「なんで、ベッドあるのに、違うところでやるんだよ」

 僕は背中でバックハグしている佐山に言う。責めてるわけでは決してない。

「うん? だってこれ、家じゃ出来ないだろ?」

 そりゃそうだけど……。

「おまえって、いつも色々考えてるわけ? どんな体位でやろうとか」
「一日中、それしか考えてない」

 きっぱり言ったな。潔いよ。

「あんたをどうやって喜ばせようか、逝かせようか考えてる」

 佐山は僕の耳にキスをしながらそう言った。冗談だろうけれど、こそぐったいほど嬉しいよ。僕はあいつの組まれた腕にキスをする。
 首筋に佐山の唇が這う。僕の背中に押し付ける、あいつのモノが硬くなっていくのがわかった。まだ夜は始まったばかりだ。ご褒美タイムには延長が付きものだよね。



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