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第1部
第37話 クローゼット
しおりを挟むインスタやツイッタにアカウントを作って、少しずつ発信を始めた。佐山の元からのファン達がすぐにフォローしてくれたのは心から有難かった。もうロックはあまりやらなくなるので心配だけど、彼の新しい船出を応援してくれているようだ。
どちらにも、短い時間だけど佐山の演奏を動画で載せた。それも好評で、新しいファンも獲得しつつある。
「順調そうだな」
佐山がスマホを見て嬉しそうにそう言った。
「おまえもたまには登場してくれよ。写真とか載せたいのあったら言ってくれれば載せるから」
「ああ。おまえの写真はNGだよな?」
「当然だ。僕は黒子なんだから、阿保なこと言うなよ」
相変わらず、このSNSがもたらす貢献度がわかっちゃいない。僕の写真なんか、誰が見たいんだよ。
「残念だな。俺の一番大事なものなのに」
う、嬉しいこと言うなよ。照れるじゃないか。いや、デレるの間違いだ。僕はリビングのソファーに座る佐山の右半身に体育座りみたくしてもたれた。
「あ、じゃあ、ギターがいいな。ラックも一緒に。俺が作ったの」
「それいいな」
佐山は下積み時代、バイトで建築関係の仕事をしていた。門前の小僧じゃないけど、何でも器用にこなす奴だから、自分でギターラックを作ったんだ。そのデザインも売れるんじゃないかってレベルでシャレオツなんだよね。
早速僕らはウオーキングクローゼットに入っているラックとギターを持って来て角度を変えて撮りまくった。なかなかいい写真が出来たので佐山のコメント付きでインスタに上げる。
『俺の二番目に大事なもの』
というタイトル。一番は書かない。コメントには早速、『一番はなんですか?』との質問が。
「ファンって言うのが模範解答だぞ」
僕がそう言う隣で佐山が笑う。コメントには答えないので、ご想像にお任せするということだけれど。
「でも、ギターと同じ土俵にしているつもりはないからな」
真面目な顔して佐山は僕に言う。
「わかってるよ。もう、いいから」
僕らはクローゼットにラックをもう一度運び直す。ここのアパートのクローゼットは優れものだ。このアパートの決め手はこれだったと言っても過言ではない。二畳ほどの広さに通路を挟んで二本のハンガーパイプがあり、各々の洋服がしまえる。これだけの広さがあるので、ギターラックの他にもスーツケースなんかも置いてあるのだ。
「倫……」
僕がラックのなかのギターを綺麗に並べると、佐山が後ろからハグをしてきた。
「どうした?」
「うん……発情した。あんたの背中を見てたら」
「背中?」
「あー、えっと尻も。上向いてて、クイってしてて。見てるだけで俺のあそこが硬くなる」
おまえの発情なんて、しょっちゅうじゃないか。佐山は器用に後ろから僕の服を脱がせる。待て待て、ここでするのか?
「佐山、あの……」
僕の言葉なんて聞いちゃいない。デニムもさっさと降ろしちゃって、僕をパンツ一つにすると、肩に唇を這わす。もちろん、右手は僕のものを握っている。
「あ……もう……」
自分のTシャツもスウェットもさっさと脱いでしまった。やるとなったら、おまえは場所を選ばないのな。それはお互い様だけど。
「好きだ。倫……」
狂おしいほどの声でそう言う佐山。僕はもうそれだけで何もかもを許してしまう。
佐山は僕を床に転がす。覆いかぶさって愛撫を始めた。僕は背中に腕を回して縋りつくように抱きしめた。
「ああっ……」
クローゼットは薄暗く埃っぽくて、衣装に染み付いた匂いなんかも漂っている。だけど、おまえがしたいならそれでいいや。僕はおまえとなら、どこでも天国に行けるんだから。
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