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第1部
第30話 コレクション
しおりを挟むテーブルの上に、彩りも鮮やかなパスタが二つ並んだ。ベーコンと茄子、それに茗荷や椎茸といった和風の野菜が合わされ、青じその千切りが香り豊かに食欲を誘っている。
「いただきまーす」
「こうかな? あ、いい感じ」
佐山がフォークでガツガツ食べている横で、僕はスマホをかざす。
「倫、またインスタ?」
「そうだよ。料理上手なアーティストって好感度高いんだよ」
「ふうん。別に好感度なんてどうでもよくないか?」
「なわけいくか」
僕は自分の撮影に満足して、和風パスタに取り掛かる。美味い。これ、僕好みのティストだ。佐山はそれをわかってて作ってくれるんだ。素直に嬉しい。
先日、話をした事務所とめでたく契約することができた。これで僕らの活動に支援をしてくれるところができたってわけだ。スタジオも借りれるし、スタッフやサポートメンバーを調達するのも容易くなった。佐山にはサポートしたいっていう仲間もファンもいるので有難い。
「な、倫もインスタ上げたら?」
「ええっ、いいよ。おまえ、自分の何もしないから、結局僕が二つも管理することになるじゃないか」
「じゃあ、俺がおまえの上げる」
「あほかっ。だったらおまえが自分の上げろよ。って何を撮ってるんだよ!」
パスタを平らげ、僕がお皿を片付けていると、佐山が僕の写真を撮った。
「実は俺、結構写真撮ってたんだよね」
「え……それは初耳なんだけど……」
いつの間にそんなことを。嫌な予感しかしない。僕は奴のスマホを恐る恐る見た。
「な、なんだよ、これっ! 肖像権の侵害甚だしいだろうが!」
そこには僕が佐山の体に乗り上げて爆睡する姿が。もちろん二人とも裸だし、僕は佐山の胸の上で涎まで垂らしている。
「可愛いだろ?」
ばかっ! 僕は真っ赤になって削除しようとするが、さっとスマホを取られてしまった。
「だめだよ。これは俺のお宝なんだから。他にもあるし……」
「な、なんだと!? おい、絶対SNSなんかに上げるなよっ」
「ふふん。どうしようかな」
僕は慌ててあいつの手の中にあるスマホに手を伸ばす。何が入っているのかわからないが、恥ずかしい写真に違いない。それがネットに流出するなんて冗談じゃない。
「ダメダメ」
そう言うと、立ち上がって手を伸ばす。あいつの方が身長が高いんだから、届くわけもない。だが、そんなことで諦める僕でもない。
「うわっ! 倫、やめろ!」
僕は佐山の脇の下をくすぐり始めた。意外にあいつはこの攻撃に弱い。あいつは体を二つに折って悶え始めた。
「もらい!」
僕はあいつの手の中にあるスマホを取り上げる。
「倫、消すのは中身確認してからにしてくれ。お願いっ」
まだ笑いが止まらないまま、佐山が懇願する。
「仕方ないな」
僕もどんな写真があるか気になったのでチェックした。
「うう……」
佐山が撮った写真は、僕が裸でベッドやソファーに転がって眠る、幸せそうな寝顔ばかりだった。時には危ういところまで写り込んでいるのもあったし、乱れた髪や服といったそれなりにそそられる? かもだけど、佐山以外が見ても何も楽しくないだろう。
「おまえ、こんなに撮ってたのか?」
「いい写真ばかりだろ? 倫の可愛い寝顔コレクション」
そう言って、僕からスマホを取り返すと画面にキスをしている。
「は……恥ずかしい奴だな」
「これは俺だけのものだから、どこにも上げないよ。そんなこと、するわけないだろ」
それはこの様子を見れば信じられる。佐山はいつまでも画面を見て、スワイプしては顔をにやけさせていた。
「佐山……」
「うん?」
「そんなに写真ばかり可愛がるなよ」
「あ? なんだ、実物がヤキモチ妬いてんのか」
僕は頬が熱くなるのを感じた。佐山がスマホをテーブルに置く。僕の顎をくいっと持ち上げ、熱いキスを交わす。罪作りなやつの唇が僕のそれを覆うと、蠢く舌で心ごと絡み取っていった。
「うん、やっぱり実物は格別だ」
「当たり前だ」
僕はおかわりのキスをもらう。あいつの背中に両腕を回すと、佐山は僕のシャツのボタンを外し始める。そうなったら、もう誰にも止められない。写真の僕より深く愛してくれよな。
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