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第1部
第25話 マネジメント
しおりを挟む「おまえ、これからどうしていきたい?」
文字通り精尽き果てて、僕に体を預けていた佐山がぴくりと動いた。そして顔を上げ、マジマジと顔を見る。
「あんた、まだ気にしてるのか?」
「気にしてるとかじゃないよ。僕は、おまえのパートナーでありたいんだよ。セ……セフレとかじゃ、なくて」
顔色を窺うようにそう言うと、佐山は一瞬呆れたような表情を浮かべた。
「話にならんな。んなこと思ったことない」
「それは僕も同じだけど」
「俺がこれからしたいのは、一生倫を抱くことだ」
佐山は冗談でもなさそうに言うと、バスルームに行ってしまった。残された僕はしばらく天井を眺めている。
――――一生抱くって……それはそれで嬉しいけど。
ソファー周りをさっと片付け、風呂場へと行く。あいつは髪を洗ってたけど、構わず中へ入った。
「倫……」
佐山は僕が入るとすぐ抱きしめに来た。
「あんたの気持ちは嬉しいけど、俺はこのままで構わないんだ。あんたさえいれば、俺は……」
「佐山、僕も同じだよ。でも、僕は佐山に好きなことして欲しいんだ。だからもし、やりたいことがあったら言って欲しい。それだけだよ。もし、今のままで本当にいいならそれでもいい。全力でサポートする」
シャワーヘッドから、とめどなく湯が降り落ちる。佐山は自分の髪や肩に打つのも気にせず、口づけをした。両手で僕の顔を包み込み、エロ過ぎる唇で僕のそれを何度も食む。さっきあんなに燃え上がって果てたのに、またむくむくと欲望が顔を覗かせた。
「さ……やま……」
甘い吐息が洩れる。それに応じるように佐山がなおも強く抱きしめる。止まらない愛しさと欲望が僕らをまた一つにした。
「俺、実は最近やりたいなあと思っている音楽、あるんだよね」
「え!? そうなの?」
風呂での二回戦が終わって、リビングに戻ってきた僕たち。佐山は肩にバスタオルをひっかけ、ソファーでビールを飲んでいる。
「でも、これがまたマイナーでさ。あんまりお金にならないんだよ」
なんだよ。そういうのあるなら、言ってくれればいいのに。僕はちょっとムッとした。だけど、全く思っていたのと違う方向だな。
佐山の話によると、ここしばらくライブやレコーディングをしていて、どうもしっくり行かないのを感じ始めていたらしい。でも、あまり深く考えていなかったと。
「あんたがこの間居酒屋の化粧室でクダ巻くからさ。ふと考えてみたんだよ」
打ち上げで酔っ払ったときのことだ。『僕がいるから大手に行かないのか』とか、確かに突っかかったかも。
「それで、どんな音楽をやりたいんだ?」
僕も半裸で奴の隣に座り、バスタオルで髪を拭いた。
「そうだなあ。ジャンル的に言うと、フュージョンって言うのがわかりやすいかな。まあ、インストルメンタルだよ」
フュージョン……。自慢じゃないけれど、僕は音楽の造詣は深くない(本当に自慢じゃないな)。フュージョンというと、有名なギタリストやグループ名は浮かぶが、どんな音楽かと言われてもいまいちピンとこなかった。
「確かにマイナーだな。それしかわからんけど」
でも待てよ。と、僕は思う。マイナーだけど、インストルメンタルって結構需要あるはずだ。ドラマや映画のBGMのみならず、CM、ゲームと事欠かない。佐山の作曲の才能やあいつのギターを全面に押し出させるこの方向はむしろ願ってもないことなんじゃないか。
「佐山、僕、これいいんじゃないかと思う」
「え? そうか?」
「ちょっと考えさせてくれ。これこそ、僕のマネージングの見せ所だ」
佐山は不思議そうな顔を見せたが、笑顔に変えた。
「そうだな。俺のマネージャーさんの実力は折り紙付きだからな」
「それな」
僕も今までの仕事の仕方は間違ってないと思う。片方の口角をあげ、親指を立てた。
「その前に、こっちのマネジメントもしてくれ」
「え? なに?」
佐山は僕の腰を持ち、ソファーの上を滑らすようにして自分の体に引き寄せた。バランスを崩しそうになり、慌てて両腕を彼の首に巻き付ける。
「おい、本気か?」
「三回戦だ。嫌か?」
嫌なわけない。僕は足を佐山の膝に乗せる。
「雨の日が好きになりそうだな」
「天気関係ないけどな」
僕らはもう一度、甘い甘いキスをした。
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