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第1部
第22話 大切な人
しおりを挟むこれは枕営業というより、レイプじゃないか。
僕は柏木の肩に担がれる恰好でエレベーターに乗っている。体は動かないのに、なんとか意識だけはある。睡眠薬なのか、それとも何かのドラッグだろうか。他人からは酔っ払った友人に肩を貸している図にしか見えないだろう。
こういう時のために柏木は鍛えているのか、全く力が入らない僕を担いでいる割に平気そうだ。短髪からは柑橘系の整髪剤の匂いがする。胸が悪くなる。
――――どうしよう。このままでは襲われてしまう。何とか逃げ出さないと。
エレベーターのドアが開いた。この階に柏木は予約を入れているのか。ここを下りてしまったら万事休すだ。
僕は今ある力の全てを出して暴れた。暴れたつもりだった。願わくばエレベーターが異常を察知して止まってくれたら。
でも、無駄だった。柏木は僕の腰をぐいっと持ってそれを抑えてしまった。
「無駄だ。君は当分動けない。佐山に毎晩抱かれてるんだろ? それと同じことをすればいいだけだよ。たまには違う相手もいいもんだ」
――――吐きそうだ。こんなこと言われて、言い返すことすらできないなんて。
「おやおや、泣かなくてもいいのに」
涙だけは出るらしい。僕は情けなさで狂いそうだった。けれど、何とか足に力を入れようとしても全く無理。操り人形のように、柏木に引きずられていく。
エレベーターからほどなく部屋に着いてしまった。柏木は器用に片手でカードをかざし、ドアが開く音がした。僕はここが最後ともう一度もがく。靴でも脱げればと格闘していたその時……。
「どこに連れて行くんですか」
背後から聞きなれた声がした。
「なに? あ、君は」
「彼は俺の大切な人なんで。返してもらいます」
――――佐山!
僕は慣れ親しんだ腕にさらわれ、抱きしめられた。大好きな佐山の匂いがする。力の入らない腕で必死にしがみついた。
「柏木さん。一部始終、録画させてもらいました。今後僕らに何かするおつもりでしたら、訴えさえてもらいますので」
「なんだと。貴様、そんなことが通用……」
「バーの女の子から、これももらってます。睡眠薬、入れるように頼んだそうですね」
佐山は何かを柏木に見せているようだ。僕は佐山の肩に頭を乗せたまま、耳だけで状況を把握している。
――――ごめん。佐山、ごめん。
「じゃ、そういうことで……」
そこで佐山は一度息を吸い、柏木の至近距離まで詰め寄った。
「おい、柏木。黙ってやってるだけ有難いと思え。こいつに二度と近づくなよ」
どすを聞かせた声で、佐山が続けた。柏木は何も反論してこなかったので事なきを得たのかな。佐山は人形みたいになってる僕を肩に担ぎ上げ、尻のあたりを支え持った。なんとも無様な格好だけど、どうしようもない。
「なんで黙って行ったんだ」
エレベーターの中でそう聞いてきた。でも、僕は何も発することができないでいる。まだ話せないんだ。しかし佐山はどうしてここがわかったんだろう。
「どうしてここに来たのか不思議だろう。それはな、あんたの帰りが遅いんで業務用のメールを見たんだよ。片野と柏木は前から良くない噂があったんで、もしやと思って慌てて後を追った。ラウンジにいるのを見つけたんだけど、あんた、まんまとバーに行っちゃうし。相変わらず無防備だな」
まだ業界に詳しくないとはいえ、そんな噂があったなんて知らなかった。でも、佐山ありがとう。助けに来てくれて、心から感謝してる。なのにおまえに恥をかかせるようなことして、僕はお詫びのしようもないよ。
「さて、今夜はしっかり落とし前つけさせてもらおうか」
――――はあ、それはもう、覚悟しています。
「動けない倫に何してやろうかなー。楽しみすぎる」
ごくりと唾を呑み込む音がする。好きにしてくれていいよ、もう。なんだかまた、違う涙が出てきた。
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