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第1部

間奏話<佐山目線>倫との出会い その1

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 小ぶりのライブハウスのいい所は、ステージからお客さんを見渡せることだ。後ろの方じゃない限り、ファンの顔が見れる。俺のギターテクに聞きほれる奴とか、奇声を上げる女客とか、そいつらが何を目当てに来たかすぐわかるんだ。

 ――――あれ? 見かけない顔だな。

 ライブハウスの前方はほぼ常連が占める。俺のファンも大抵同じところにいて、有難いなと思う。だが、その日、俺は見つけてしまった。迷いネコのようにそこに立つ、クールビューティなあいつに。


「君、初めてだよね」
「はい! 佐山さんのギターに感動しました!」

 俺はサポートだし、サイン会だの握手会だのには出ないんだけど、この日はメンバーに混じって参加した。俺のファンは狂喜してたが、ごめん、俺の狙いは彼なんだ。熱い視線を投げてきてたから大丈夫と思ったけど、ちゃんと列に並んでてくれて安心したよ。

「サインお願いします」
「もちろん。名前は?」
「市原倫です」

 サインをもらうなんて考えてもいなかったんだろう。倫は手売りしているバンドのTシャツを広げた。俺はそこに彼の名前とサイン、そして俺の連絡先を書いてやった。

 きょとんとした顔が可愛かったな。ウィンクして握手した。

 
 連絡は三日後に来た。なかなか来ないので心配したが、これで彼はノンケだとわかった。さて、落とすには慎重にしないとな。

 俺は彼に特別なものを感じていたんだ。今までとは違う。だから、絶対に逃したくなかった。最初のデート(倫はそう思ってなかったかもしれないが)では、様子見した。
 彼は白シャツにデニムといったラフな格好で来たけれど、フレグランスが香る整えられた髪、きらきらと輝くような瞳と上気した頬からは、この日を楽しみにしていたのが見て取れた。

 いきなりキスするのもなんなので、音楽の話やお互いの趣味なんかを話す。彼は大企業の会社員らしい。俺は彼の目から視線を離さずに会話を楽しむ。倫は息を弾ませながら話をしている。可愛すぎる。

「ゴミついてるよ」

 そう言って髪を触る。ゴミなんかついてない。俺はあらかじめ自分の手にあったチリゴミを見せる。

「あ、ありがとうございます」

 明らかに頬を赤らめて倫がお礼を言う。よしっ、行ける。と俺はその時確信した。しかし、本当に可愛いな。伏し目がちに揺れる長い睫毛と男心を誘うピンクの唇。まるで天使だ。


 二回目のデート。チャンスはやってきた。居酒屋を出てすぐ、あいつは無防備にも、狼である俺の襟を直そうと手を伸ばす。もちろん襟を入れたのはわざとだ。ここぞとばかりに俺は倫の腕を取る。

「な、なに?」

 怯えた顔して俺を見上げる。もう可愛くてこのまま押し倒したい! しかし、今日はキスだけと決めていた。俺は倫の唇を塞ぐ。そして彼の細い顎を持ち、熱い熱いキスをお見舞いする。唇と舌をふんだんに使い、十分に味わう。

「んむむ……」

 可愛い声を喉の中でくぐもらせて、倫が俺の中で喘いでいる。膝に力が入らないのか、足がふらつくので腰に手をやり支えた。意外に胸筋や腹筋がしっかりしている。こういうところも俺好みだ。
 酸素がなくなり、惜しみながらも唇を離したとき、あいつは俺の体にしがみつくように抱きついてきた。

 ――――愛おしい。なんて愛おしいんだ……。

 俺は倫を抱きしめる。夜の繁華街。人通りはさほど多くはないが、酔っ払いが横を通っていく。笑い声をあげるやつがいたけど、全く気にならなかった。

 ――――このままホテルに連れ込みたい。

 俺は葛藤した。だが、ここは慎重に行くべきだ。俺の経験がそう叫んでいる。大切なものを得るときには、焦ってはだめだ。

 何が起こったのか。倫は多分、自分の心と体に起こっていることが整理できていないはずだ。ただ体の関係だけを求めるなら、この訳の分からないうちに攻めるのが正解だろう。

 だけど……俺は倫と、恋人として付き合いたい。だから誠意を尽くしたいのだ。
 俺は倫をタクシーに乗せて帰宅させた。お楽しみは次回だ。

 しかしその次回、俺が愛したのは天使じゃなかったと思い知る。いや、それこそが俺のどストライクだったんだ。




その2に続く
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