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第1部

第20話 攻撃的なキス

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 旅行から帰ってきて、僕らは日常に戻った。佐山は新たなライブのサポが決まり、今はリハに勤しむ毎日だ。例の僕が依頼を受けた作曲はとうに出来上がっていて、早速相手に送った。感触は良さそうなので、これもまたレコーディングをすることになるだろう。

 ――――あれ、この人この間レコーディングに来てた人だな。

 そんなある日のこと、僕に一通のメールが来た。これは仕事用のアドレス。佐山の仕事依頼はここで受けている。何か仕事のオファーがあるみたいだ。このディレクター、片野さんは業界で顔が利く大物の一人。ついに佐山もこういう人から声がかかるようになったかと、僕は感無量な気持ちになった。

 ――――詳しくは対面で、とあるな。話の内容がわかるまで佐山には内緒にしておこう。

 会ってみて、がっかりな内容だったら話づらいし、逆ならサプライズになる。僕は指定された日に伺う旨の返信をして、佐山には言わずにおいた。


「リハ終わったー。帰ろうぜ」

 本日も滞りなく業務が終了した。佐山はすっきりした顔をして僕のところへやってくる。

「お疲れ。あ、僕ちょっと買い物に行ってくるから、先に帰っててくれ」
「ん? そうなの。まあいいけど。じゃあ、後でな」

 別に大した買い物があるわけじゃないけれど、嬉しいオファーが来たことで、僕は何かお祝いがしたかった。
 前祝ってことかな。美味しいお酒でも買ってこようと思ったんだ。それに合う食材も一緒に。奴には何のこっちゃわかんないだろうけど。

 デパ地下の食料品売り場をうろうろして、あいつの好きな酒と食材を見繕って帰路についた。
 片野ディレクターからのオファーはどんなのだろう。何か企画ものかな。僕は期待でわくわくした気持ちになった。早く内容がわかって佐山に教えてやりたい。


「ただいまー」

 僕は勢いよく玄関の扉を開ける。リビングに行くと、なんだ、モバイル見てたのかな?

「お、おかえり」

 何となく様子がおかしい。でもまあ、こいつはいつもこんなものだ。

「今日の晩御飯さ……って、おい、なんだ?」

 あいつが凄い形相で僕に突進してきた。待てよ、何事? 僕はまだレジ袋もおいてないのに。

「んむむ……っ」

 突然、痺れるほど強く抱きしめられたと思ったら、攻撃的なキスに襲われる。い、息が出来ないっ。舌で気管を塞がられるんじゃないかと思うくらい乱暴だ。
 でも……こういうのも悪くない。何が起こったのかわかんないけど、佐山が異常に興奮しているのがわかった。モバイルでエロい動画でも見てたのかな。僕はあいつの背に腕を回す。

 ――――わっ!

 するとあいつは僕をキッチンの床に押し倒す。レジ袋から買ってきたオレンジが転がり落ちてる。僕の洋服をボタン引き千切る勢いで剥がしだし、パンツやショーツも瞬殺だ。

「ああ……っ!」

 前戯するのももどかしかったのか、早速いきり立ったものを押し入れてきて。僕は何がなんだかわからないうちに快感の坩堝に……。
 それでも、僕も今日はテンション高かったから、あいつの乱暴な愛も受け止められた。逆に可愛く思えたほどだ。
 あいつがどんな動画を見たのか、あとで聞いてみることにしよう。



 三日後、僕はディレクターに指定された場所へ一人で出かけた。それがとても迂闊だったと、後からめいいっぱい思い知ることとなった。


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