上 下
3 / 208
第1部

第3話 デザート

しおりを挟む


 マネージャーの仕事には、営業というのもある。ライブやレコーディング、雑誌の取材なんかは佐山と同行するけれど、あいつの仕事を取るのは僕一人で行く。
 今日も有名アーティストからご指名を受けたので、そのマネージャーさんと打ち合わせだ。満足いく金額と待遇をもらえたので、僕はいい気分でアパートに帰った。

 佐山は今日はリハに行っている。来週からはツアーに参加なので、しばらくは二人で旅気分だ。これが最高に楽しい。

「ただいま」

 佐山が帰ってきた! 僕は新婚家庭の奥様みたいに玄関に走って奴にダイブした。

「うわ! もうあんたは猫か」

 なんて言いながらもちゃんと受け止めてくれた。ついでにキスももらう。

「晩御飯、たまにはと思って作ったよ。佐山の好きなハンバーグ」
「おお! マジか。それはいいな。あ、でも先にシャワー浴びる。いいかな」
「もちろん」

 そう言って佐山は風呂場に向かう。僕らは一緒に風呂に入ることもよくある。今も当然、そうしたくなった。

「僕も入っていいかな」

 いいに決まっている。すでに裸になっている佐山に続いて、着ていたエプロンを外そうとする。

「あー。今日は駄目」
「え? なんでさ」
「あんたと入ると長くなるからなあ。空腹なんだ。早くハンバーグ食べたい」

 僕はちょっと不服そうな顔をして「わかった」、と言う。長くなるってのは僕も承知してるとこだ。あいつと一緒にただシャワー浴びるんじゃしょうもない。

「不服そうな顔するなよ。ちゃんと後で、可愛がってやるから」
「約束だぞ」

 あいつは裸のままにやりと笑う。その逞しい胸に今すぐ飛び込みたいのに、さっさと風呂場に入ってしまった。




「ごちそうさま! 美味しかったよ! あんた、料理も出来るんだな」

 僕はあまり料理が得意じゃない。僕らは外に出ることが多いから、あまり自炊はしないんだ。逆に佐山の方が時々パスタなんかを作ってくれる。だからたまにはと、ハンバーグを作れるように頑張ったんだ。佐山が喜んでいるようで、良かったよ。

「じゃあ、僕、風呂に入ってくるから待っててよ。寝るなよ」
「わかってるって、さっさと行ってこいな」

 食器を食洗器にぶち込んで、僕はいそいそとシャワーを浴びに行った。
 勢いよく落ちるシャワーに体を晒す。やっぱり気持ちいいや。いつもどおり体を丁寧に洗う。白い泡が腕や脚を伝っていくのが見えた。
 と、気分良く洗っていた時だった。予告もなく風呂場の扉が開いた。

「え? なに?」

 そこには裸の佐山がいた。僕があっけに取られているのを楽しむように口角を上げ、ずいっと入ってくると扉を後ろ手で閉める。
 狭いバスルームだ。二人の男が入れば、自然に体がぴたりと寄る。

「驚いたか? まあ待ってるのが退屈だったんだ」
「なんだよ、さっきは一緒に入るの拒否したくせに……」
「あんたがせっかく作ってくれた料理、早く食べたかったんだよ。で、今はデザートいただこうかと」

 佐山が裸の僕を抱きしめ、キスを求めてくる。そんなこと言われたら、やっぱり嬉しい。ベタなせりふだけど、デザートでもなんでも丸ごといただいてもらおうか。あいつの無遠慮な舌が僕の舌を絡めとる。タイルを打つ水音が僕らの息遣いをかき消した。

「俺が洗ってやるよ」

 そう言って、佐山は途中だった僕の体を泡で洗い出した。随分と時間をかけるから、動悸が逸ってヤバい。
 そのうちあいつは僕の大事なところに取り掛かる。大きな背中にシャワーの湯が跳ねてる。しまいには、自分の舌を使ってゆっくりと味わい出した。

「あ……ああ」

 僕は佐山の髪をぐりぐりとかき混ぜる。

「美味しい……か?」
「ああ、これなら……いくらでも食べられる」

 湯気が鏡を曇らせていく。僕らの姿をもっと映してくれればいいのに。僕はまた至福の声を上げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

キスから始める恋の話

紫紺(紗子)
BL
「退屈だし、キスが下手」 ある日、僕は付き合い始めたばかりの彼女にフラれてしまった。 「仕方ないなあ。俺が教えてやるよ」 泣きついた先は大学時代の先輩。ネクタイごと胸ぐらをつかまれた僕は、長くて深いキスを食らってしまう。 その日から、先輩との微妙な距離と力関係が始まった……。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

スパダリ様は、抱き潰されたい

きど
BL
プライバシーに配慮したサービスが人気のラグジュアリーハウスキーパーの仕事をしている俺、田浦一臣だが、ある日の仕事終わりに忘れ物を取りに依頼主の自宅に戻ったら、依頼主のソロプレイ現場に遭遇してしまった。その仕返をされ、クビを覚悟していたが何故か、依頼主、川奈さんから専属指名を受けてしまう。あれ?この依頼主どこかで見たことあるなぁと思っていたら、巷で話題のスパダリ市長様だった。 スパダリ市長様に振り回されてばかりだけと、これも悪くないかなと思い始めたとき、ある人物が現れてしまい…。 ノンケのはずなのに、スパダリ市長様が可愛く見えて仕方ないなんて、俺、これからどうしたらいいの??

処理中です...