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第1部
第3話 デザート
しおりを挟むマネージャーの仕事には、営業というのもある。ライブやレコーディング、雑誌の取材なんかは佐山と同行するけれど、あいつの仕事を取るのは僕一人で行く。
今日も有名アーティストからご指名を受けたので、そのマネージャーさんと打ち合わせだ。満足いく金額と待遇をもらえたので、僕はいい気分でアパートに帰った。
佐山は今日はリハに行っている。来週からはツアーに参加なので、しばらくは二人で旅気分だ。これが最高に楽しい。
「ただいま」
佐山が帰ってきた! 僕は新婚家庭の奥様みたいに玄関に走って奴にダイブした。
「うわ! もうあんたは猫か」
なんて言いながらもちゃんと受け止めてくれた。ついでにキスももらう。
「晩御飯、たまにはと思って作ったよ。佐山の好きなハンバーグ」
「おお! マジか。それはいいな。あ、でも先にシャワー浴びる。いいかな」
「もちろん」
そう言って佐山は風呂場に向かう。僕らは一緒に風呂に入ることもよくある。今も当然、そうしたくなった。
「僕も入っていいかな」
いいに決まっている。すでに裸になっている佐山に続いて、着ていたエプロンを外そうとする。
「あー。今日は駄目」
「え? なんでさ」
「あんたと入ると長くなるからなあ。空腹なんだ。早くハンバーグ食べたい」
僕はちょっと不服そうな顔をして「わかった」、と言う。長くなるってのは僕も承知してるとこだ。あいつと一緒にただシャワー浴びるんじゃしょうもない。
「不服そうな顔するなよ。ちゃんと後で、可愛がってやるから」
「約束だぞ」
あいつは裸のままにやりと笑う。その逞しい胸に今すぐ飛び込みたいのに、さっさと風呂場に入ってしまった。
「ごちそうさま! 美味しかったよ! あんた、料理も出来るんだな」
僕はあまり料理が得意じゃない。僕らは外に出ることが多いから、あまり自炊はしないんだ。逆に佐山の方が時々パスタなんかを作ってくれる。だからたまにはと、ハンバーグを作れるように頑張ったんだ。佐山が喜んでいるようで、良かったよ。
「じゃあ、僕、風呂に入ってくるから待っててよ。寝るなよ」
「わかってるって、さっさと行ってこいな」
食器を食洗器にぶち込んで、僕はいそいそとシャワーを浴びに行った。
勢いよく落ちるシャワーに体を晒す。やっぱり気持ちいいや。いつもどおり体を丁寧に洗う。白い泡が腕や脚を伝っていくのが見えた。
と、気分良く洗っていた時だった。予告もなく風呂場の扉が開いた。
「え? なに?」
そこには裸の佐山がいた。僕があっけに取られているのを楽しむように口角を上げ、ずいっと入ってくると扉を後ろ手で閉める。
狭いバスルームだ。二人の男が入れば、自然に体がぴたりと寄る。
「驚いたか? まあ待ってるのが退屈だったんだ」
「なんだよ、さっきは一緒に入るの拒否したくせに……」
「あんたがせっかく作ってくれた料理、早く食べたかったんだよ。で、今はデザートいただこうかと」
佐山が裸の僕を抱きしめ、キスを求めてくる。そんなこと言われたら、やっぱり嬉しい。ベタなせりふだけど、デザートでもなんでも丸ごといただいてもらおうか。あいつの無遠慮な舌が僕の舌を絡めとる。タイルを打つ水音が僕らの息遣いをかき消した。
「俺が洗ってやるよ」
そう言って、佐山は途中だった僕の体を泡で洗い出した。随分と時間をかけるから、動悸が逸ってヤバい。
そのうちあいつは僕の大事なところに取り掛かる。大きな背中にシャワーの湯が跳ねてる。しまいには、自分の舌を使ってゆっくりと味わい出した。
「あ……ああ」
僕は佐山の髪をぐりぐりとかき混ぜる。
「美味しい……か?」
「ああ、これなら……いくらでも食べられる」
湯気が鏡を曇らせていく。僕らの姿をもっと映してくれればいいのに。僕はまた至福の声を上げた。
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