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第1部
第1話 少し厚めの唇
しおりを挟むそろそろ桜の便りが街を賑わす春。心も体も自然とわくわくしてくるんじゃないかな。僕はもうずっと、浮ついた春のようだけど。
僕の名は市原倫。フリーのギタリスト、佐山巧と付き合いだしてから、世界は一変した。社会人としての世界はもちろんだけど、最も大きく変わったのはそれ以外のほうだ。
「ああっ……佐山……っ」
「まだだ……まだイクな。もう少し聞かせてくれ……あんたの声」
僕の背にくっついたまま蠢く佐山が、荒い息を吐きながら言う。
「はあ、無理……言うなよ……んっ」
二人で住んでいる1LDKのアパート。高級マンションとまではいかないけれど、僕が会社勤めをしていた頃よりはずっといい。とにかく壁が厚いから、僕の声が隣に聞こえないのが助かる。
今夜もまた、僕たちはベッドの上で獣のように絡まっている。
「もう……無理……うう、あぁ!」
僕は絶頂を迎え、奴の腕の中で果てる。急いで体を反転させ、後ろから抱きしめていた佐山の唇にむしゃぶりついた。あいつの少し厚めの唇が、頂点で狂う僕を受け止めてくれる。舌を存分に絡ませ、気が収まるで吸い付いた。
「ああ……」
まだ動悸が激しい。でも、少しずつテンションが落ち着いていく。僕は深い息とともにベッドに身を沈めた。
「満足したか?」
「ううん、そうだな」
「やっぱり、あんたは後ろからの方が好きみたいだな」
肘をついて、佐山は僕を見下ろしている。額に汗を浮かべているのが見えた。僕はそっと彼の額を右手で拭う。
「おまえとならどっちも好きだ」
佐山はくっきり二重の目を、少しだけ細め微笑んだ。
ロックミュージシャン、佐山巧。知る人ぞ知る、名ギタリストだ。バンド活動がうざったいのか、若いころからずっと一人で活動している珍しいタイプのアーティスト。楽曲の提供なんかもしている。
佐山とはライブハウスで出会った。まだノンケだった僕はこいつにナンパされ、すぐに落とされてしまう。
その後、一人で苦労していた奴のため一念発起し、会社勤めを辞めてマネージャーになった。公私とものパートナーになったわけだ。
佐山と一緒にいたいってのは当然ある。こいつは男にも女にもモテるんだ。見張ってないと心配でしかたない。
でも、最近では収入も安定したし、佐山の評価もうなぎ上り。マネージャーになって良かったと思っている。
「佐山……」
佐山のがっしりとした肩や腕が僕は好きだ。厚い胸板も。そこに顔と体を寄せ、腕を首の後ろに絡ませた。
「どうした、倫? まだ足りないのか? あんたの欲望は果てしないからな」
「ええ? そうしたのは誰だよ。うん、まだ足りないかも」
僕は佐山の腕の中でくすくす笑う。そして自分の下腹部をやつのそれにコシコシとこすりつけた。お互いの欲の棒が少しずつ固くなっていくのがわかる。
「困った奴だなあ。もう少し休みたいんだけど」
「だめ。待てないよ……」
僕は佐山の唇に自分のそれを寄せる。佐山もそれに呼応するように僕の唇を食みだした。甘い甘いキスを交わす。
もう一回、最初から始めよう……まだ夜は長い……。
――――☆――――
<登場人物紹介>
市原倫(いちはらりん)
25歳 身長180㎝ 体重70kg
ストレートの短髪でクールビューティな今風イケメン
痩せてみえて実は細マッチョ
大企業のサラリーマンからギタリスト佐山巧のマネージャーに転職
ノンケのはずが佐山に一目ぼれしてから人生が変わる
佐山巧(さやまたくみ)
26歳 身長185㎝ 体重76kg
セミロングのウルフカット
彫の深い顔立ちの男前 筋肉質
少し厚めの唇がセクシー
フリーのギタリスト
ライブハウスに来た倫をナンパし、現在に至る
交際から一年。付き合ってすぐに同棲を始めた倫と佐山。お互いの愛を糧に日々を幸せに暮らす二人のお話始まります。
つづく♡
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