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エピローグ
8 二人の願い
しおりを挟む「ねえ、タカ。やっぱり間違ってたのかな。空が消えてオレが残ったこと。ううん。オレの中に空はちゃんといるってわかってるけど、それは今までとは違うんだ。オレが空を食っちまったんだよ」
突然、甘えるような口調になる。膝を抱え、丸くなったカササギはさらに小さくなってしまったように感じた。俺は体をずらし、あいつの肩を抱きしめる。
「そんなこと言うな。少なくとも俺は、おまえが空を食ったなんて思っていない」
「本当にそう思ってる? オレだって立派な意識を持った人格なんだ。残ったっていいじゃないか。空もそう願った。
オレと空は同じなんだよ。空はずっとオレになりたがってた。オレも……空を大切にしてたんだ」
カササギは膝を抱えるのを止め、俺に抱き着いて喚いた。その両腕には、思わぬ力が入っている。
――――カササギ……泣いているのか?
俺はあいつの目元にそっと指を這わす。ひたりと指の先が濡れた。
「そうだな……俺はわかってるよ。おまえも空も、ここにいる。それで俺はいい」
空は、おまえが母親になんの感情も持っていないこと、羨ましかったんだ。だから、自分は消えてもおまえを残す決心をした。
――――俺を、危険に晒さないために。カササギ、おまえもそれをわかっていたんだな。だからあの夜、空に全てを明け渡したんだ。
『安心しろ。オレはヤキモチ妬かないから』
なんて言ったかどうかはわからないけれど。
俺はあいつをゆっくりと剥がし、顎に手をあてた。
「タカ……オレの言うこと、信じてくれるよな。タカを愛してることも全部含めて……ねえ、タカ……」
花びらのような唇が俺の名を呼ぶ。俺はそれを閉じ込めるよう、口づけをした。
「カササギ、おいで」
カササギは俺の膝の上にまたがった。向かい合わせになった俺たちは何度もキスを繰り返す。互いに愛の言葉を吐きながら。
あの雨の夜から、この運命は決まっていたんだ。あいつが端から計画したことだとしても、それに乗っかるのもおつというものじゃないか。
――――信じる? それがおまえの願いなら、俺は信じる方を選ぶ。それは空の意思を尊重するものでもあるんだ。二人の願いなんだよな。
たとえ誰も信じなくても、俺だけが信じてやればこいつは生きていける。それは俺も同じだ。こいつに生かされていく。
――――いつか、信じられなかったことを後悔するよりはずっといい。
気付くと、窓の外から雨音がひたひたと追いかけてきた。カササギのため息のような呻き声がそれに重なっていく。
――――いい夜だ。おまえと出会った夜のようだよ。
俺はあの夜、たいそうなものを拾ってしまったんだな。あの瞬間、俺の人生が大きく舵を切った。おかげで、鉛を抱えたまま動けなかった心が、ようやく前を向けたんだ。
空とカササギが与えてくれたたった一度のチャンスだった。今ならそう確信できる。
胸に熱い思いが満ちてくる。耳元で呻くカササギの愛しい声を聴きながら、俺はこの稀なる出会いに感謝した。
完
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