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エピローグ
3 危険な提案
しおりを挟む「けれど、納屋は入院が空君たちにとって必ずしもプラスにならないと言うんですよ。トリガーである父親ももはやこの世にいないから大丈夫だって言うし……」
「その頃の、後見人は納屋さんだったんですか?」
「ああ、ええと。退院の話が出た時は、18歳になってましたから。それまでは一応母親ですよ」
「え? あの、空を捨てた母親? それこそまさかですが……」
空が人格を解離させていったのは、当然鬼畜な父親のせいだけど、母親だって大きな責任はある。彼女が空を助けてさえいれば……そりゃ、難しいことだったかもしれないけれど。
空が母親に会いに行った時のことを思い出すと、許せない気持ちが沸々と沸き起こってくる。
「ええ、わかってます。彼女は事件後も空とは会ってませんよ。怖がってしまって……。ですので、全権を納屋に委ねてました。
まあ、空が退院するのは反対していたようですがね。空には絶対に居場所を教えないことを条件に承諾したようです」
「そうでしたか」
『空が本当に殺したかったのは、母親とその子供だったかもしれない』
カササギはそう言ってたな。自分の命の心配でもしたか。そうか、母親への恨みを緩和させる意味でも、カササギの存在は必要だったのかもしれない。カササギは母親を知らないわけだから、感情はフラットだった。
「結局、カササギが自分が空の自立を助けるから試して欲しいと言ったんです。失敗したら、入院してもいいからと。
私は彼と何度も対面して話をしました。空君よりもずっと精神的に安定してましたし……私も、その、欲というか。試す価値はあると考えました。この方法が成功するのをみてみたいと思ったんです」
そんな実験的なことを一介の開業医がするべきじゃない。それを重々知りながら、納屋とカササギの提案に乗った。それはわからんでもないが、危ないことをしたものだ。
『信用できるパトロンが必要』
カササギが言っていた。鬼塚がどこまで真剣に考えてたか知らんが、白羽の矢が当たった俺はいい迷惑とも言える。いや、俺だったからこそ上手くいったが、ある程度の計算高い奴だったらどうなったか。
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