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第5章
9 空の決意
しおりを挟むその日から、カササギは俺の寝室で寝るようになった。俺の短い睡眠時間を削られるのを恐れたが、意外にもカササギは迫ってくることはなかった。どちらかというと、俺の誘いに乗る方が多くなったのはどういうことか……。
ただ、自分のそばに誰かがいるだけで、いや違うか、俺がいるだけで、あいつは安心するみたいだ。これも空へ近づいているのだとしたら、喜ぶべきことかもしれないな。
そんなある日の夜、というか午前3時の深夜だ。朝晩は空調無しでは肌寒い時期になっていた。俺がネットを閉じ、寝室に戻ると、いつものようにパジャマを着たカササギが静かに寝息を立てていた。
起こさないようにそっと隣に入る。人肌で温められたベッドは本当に心地よい。俺はふうと一つ息を、幸せなため息を吐いた。
「久遠……」
「あ、悪い。起こしたか」
カササギが寝返りを打って、俺の方を向いた。いや、待て。今、なんて言った?
「お仕事お疲れ様。久遠、元気だった?」
「そら……空なのかっ? あの、おまえ……」
くせっ毛の下に大きな瞳が二つ。形の良い唇の両端を少しだけ上げてほほ笑んでいる。
「うん。心配かけたかな」
「ああ、ああ。良かった。会えて良かった……」
俺は思わず空を抱きしめた。涙が出るほどうれしかったんだ。
「あ、ご、ごめんっ」
だが、我に返って慌てて離れた。もう引っ込んでしまったんじゃないかと顔を覗く。
「大丈夫だよ。もう。えへへ」
「そうなのか?」
こくんと頷く空。それから俺の頬にちゅっと軽くキスをしてくれた。
「空……俺はおまえに謝らないといけないな。俺のせいで……怖いめにあったんだろう?」
もうひと月以上も経っていた。あの、『陸』が突如として現れ、空が隠れてしまってから。
「ああ、そうだね。でも、久遠のせいじゃないよ。僕とカササギとの問題だったから」
あの瞬間、空のなかで何が起こったのか。考えてみれば、俺はカササギからは聞いたが、空からは聞けてなかった。
「いったい、なにが起こったんだ? もし、大丈夫なら教えて欲しいところだが……」
それでもまた、これが負担になって再び空が引っ込むようでは敵わない。せっかくもどってきてくれたのだから。
「いや、急ぐことはないな。追々でいいからまた教えてくれ」
もう一度、空は優しい笑みを作り、俺に抱き着いてきた。どうしたんだ? 俺は戸惑ったが、力を入れるようなことはせず、ゆっくりと空の背中をさすった。
「僕は多分、もう久遠の前には現れないと思う」
「えっ! なに言ってるんだ!」
俺は胸に顔を埋める空の表情を読もうと覗き込む。
「あ、誤解しないで。久遠の前だけってわけじゃないんだ。僕の人格はもう、消そうと思ってるんだよ」
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