カササギは雨の夜に啼く【R18】

紫紺

文字の大きさ
上 下
83 / 96
第5章

9 空の決意

しおりを挟む


 その日から、カササギは俺の寝室で寝るようになった。俺の短い睡眠時間を削られるのを恐れたが、意外にもカササギは迫ってくることはなかった。どちらかというと、俺の誘いに乗る方が多くなったのはどういうことか……。
 ただ、自分のそばに誰かがいるだけで、いや違うか、俺がいるだけで、あいつは安心するみたいだ。これも空へ近づいているのだとしたら、喜ぶべきことかもしれないな。

 そんなある日の夜、というか午前3時の深夜だ。朝晩は空調無しでは肌寒い時期になっていた。俺がネットを閉じ、寝室に戻ると、いつものようにパジャマを着たカササギが静かに寝息を立てていた。
 起こさないようにそっと隣に入る。人肌で温められたベッドは本当に心地よい。俺はふうと一つ息を、幸せなため息を吐いた。

「久遠……」
「あ、悪い。起こしたか」

 カササギが寝返りを打って、俺の方を向いた。いや、待て。今、なんて言った?

「お仕事お疲れ様。久遠、元気だった?」
「そら……空なのかっ? あの、おまえ……」

 くせっ毛の下に大きな瞳が二つ。形の良い唇の両端を少しだけ上げてほほ笑んでいる。

「うん。心配かけたかな」
「ああ、ああ。良かった。会えて良かった……」

 俺は思わず空を抱きしめた。涙が出るほどうれしかったんだ。

「あ、ご、ごめんっ」

 だが、我に返って慌てて離れた。もう引っ込んでしまったんじゃないかと顔を覗く。

「大丈夫だよ。もう。えへへ」
「そうなのか?」

 こくんと頷く空。それから俺の頬にちゅっと軽くキスをしてくれた。

「空……俺はおまえに謝らないといけないな。俺のせいで……怖いめにあったんだろう?」

 もうひと月以上も経っていた。あの、『陸』が突如として現れ、空が隠れてしまってから。

「ああ、そうだね。でも、久遠のせいじゃないよ。僕とカササギとの問題だったから」

 あの瞬間、空のなかで何が起こったのか。考えてみれば、俺はカササギからは聞いたが、空からは聞けてなかった。

「いったい、なにが起こったんだ? もし、大丈夫なら教えて欲しいところだが……」

 それでもまた、これが負担になって再び空が引っ込むようでは敵わない。せっかくもどってきてくれたのだから。

「いや、急ぐことはないな。追々でいいからまた教えてくれ」

 もう一度、空は優しい笑みを作り、俺に抱き着いてきた。どうしたんだ? 俺は戸惑ったが、力を入れるようなことはせず、ゆっくりと空の背中をさすった。

「僕は多分、もう久遠の前には現れないと思う」
「えっ! なに言ってるんだ!」

 俺は胸に顔を埋める空の表情を読もうと覗き込む。

「あ、誤解しないで。久遠の前だけってわけじゃないんだ。僕の人格はもう、消そうと思ってるんだよ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...