カササギは雨の夜に啼く【R18】

紫紺

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第5章

3 偶然じゃない

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「最近、ブログの更新されてないですね」

 結び終えたところで、ふいに鬼塚が問いかけてきた。ブログ。ああ、会員向けのやつか。鬼塚はメンバーさんだったな。

「すみません。バタバタしていて。でも、今日あげるつもりです。もう書けているので」

 それは俺も認識していた。だが、書けているは嘘だ。まあ、その気になれば1時間で仕上げられるが。

「良かった。久遠さんのブログは私の楽しみでもあるんですよ。まだまだ投資は難しいですが、参考になります」
「それは励みになりますね。ありがとうございます……ああ、そう言えば……」

 俺はふと思い当たった。

「実は、初めてカササギに会った夜のことなんですが……。あいつは俺のことを知っていたようなんですよね」

 この病院に置かれていた雑誌に、俺の写真が載っていた。それで、見知った顔の俺に声をかけたのだと思ったのだけれど……。

 ――――考えてみれば、そんな偶然あるだろうか。あの居酒屋は俺がよく使う店だ。料理も酒もうまく、雰囲気もいい。高級過ぎることもないので値段もまずまず……。

「え? そうですか? 待合室の雑誌で目にしてたのかな」

 なんだか歯切れが悪いな。目を合わせないのも変だ。

 ――――あの居酒屋のこと、ブログに書いたかな。それと俺の予定。あの日、打ち上げがあったのは、メンバー限定の講座と歓談会があったからだ……。

 そこまで考えて俺は理解した。あれは偶然じゃなかったんだ。

「でも、どうして」
「はい?」
「どうして、カササギたちを俺に保護させたんですか? 俺が悪人だったら……」
「ま、待ってください。私はそんなことさせてません」

 この期に及んで、鬼塚医師は否定してきた。驚いた表情で右手を自分の鼻の前で左右に激しく振る。芝居だとしたら名演技だ。

「今更……」
「いえ、私もカササギがあなたを連れてきたとき驚いたんです。けど、私があいつに勧めたわけでも、それっぽいことを言ったわけでもないんです」

 鬼塚の言い訳によると、カササギは鬼塚が株の投資を楽しんでいることは知っていた。楽しむとは、駅前にクリニックを開業する富裕層の鬼塚らしい表現だ。

「カササギは空よりもずっとネットの知識とか持っていて、私の話からあなたに興味を抱いたのかもしれません」

 鬼塚はあくまでもカササギが勝手に俺を調べたのだと主張したが、さあ、どうだろね。さすがにそこまであいつも出来ないだろう。出没時間は空よりも短いんだ。

 ――――まあ、それをつついたところで得るものは少ない。そういうことにしておいてやるか。

 俺は腹落ちしなかったが、納得したふりをした。

「とにかく……早起きしたり料理をするのはいい傾向だと思います。規則正しい生活というのもいい。空がやってたような、PC操作はどうですか?」
「そうですね。やらせてみるのもいいか。エクセルから教えないとだけど、やってみます」

 鬼塚は、今度はわかりやすい作り笑顔で俺に頷いてみせた。


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