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第4章
13 墓穴を掘る
しおりを挟むカササギは腹の上の居心地が良くなかったのか、結局腕枕よろしく移動してきた。俺の話にはもう納得がいっただろうか。これ以上、話すようなことはない。
その後の俺はどうにも日常に戻れず、会社の理不尽さに抗うのも嫌になって退職した。
例の准教授、五十嵐のところに身の振り方の相談と称して顔を出したのも、宗志の死を知ってる人に慰めてもらいたかったのかもしれない。
五十嵐は、親切に例えを交えてレクチャーしてくれたな。変に宗志の話をしなかったのは、あの人の優しさだったんだろう。九州で再会したときの心配顔から察するに、相当酷い顔してたんだな、あの頃の俺は。
「おまえ、納屋や鬼塚センセに啖呵斬ってたが、マジで自信あるのか? あの『陸』とやらが出てこないって」
「お、早速話を戻したね」
「当たり前だ。はぐらかされたままで済むか。俺の話はもう後日談とかないからな」
ちぇっ、と小さな舌打ちが聞こえる。
「自信なら、まああるよ。タカが……空を抱かなければいいんだ」
「へえ。それは約束出来んな。空が望んでいるなら、応えてやりた……」
「な! なんだよっ! このスケベおやじ!」
カササギはバネ仕掛けの玩具みたいに飛び起き、俺の顎を乱暴に掴む。
「え!? どの口がそんな鬼畜を言ったんだ? そんなことするなら、陸にあんたを殺させてやる!」
「ふわなへっ(離せ)!」
俺はあいつの細い手首を掴み、顎から離した。
「いてえな。乱暴な奴め」
「だって!」
「おまえ、気付いてないのか。墓穴を掘るってのはこういうことだぞ」
え? と、本当に気付いてない様子でカササギは首を傾げる。その直後、『あっ』と声を出さずに口だけがその形になった。
「やっぱりおまえが陸を呼び出したんだな」
寝そべったままの俺の視線の先、横座りしたカササギがそれを避けるようにぷいっと反対側を向いた。
「危うく殺されるとこだったよ」
「ごめん……」
あいつにしては小声で。けれど、詫びているのは正直な気持ちのようだ。
「追い詰められてたんだ。オレは……。空にとって不要になる。いつかはそんな日も来るかもしれないってわかっていたのに。いざそうなると、その恐怖に耐えられなかった」
「カササギ……」
「タカのせいだよ。オレ、タカのそばにいたいんだ」
再びカササギは俺の腕のなかに収まろうと覆いかぶさってくる。条件反射のように、俺はあいつの背中に両腕を置きさすった。
「『陸』はどうやって呼び出したんだ? 俺を殺せとでも命令したのか?」
すぐ顎の下にあるカササギの髪が二度三度横に振れた。
「それは違う……。オレ、今回のことで確信したんだ。陸が顕れる条件というのかな。タカはオレが呼び出したって言ったけど、それは少し違う。オレは無意識だったし、タカを襲わせるつもりなんかなかったんだ」
半身を起こし両腕で体を支える。カササギは俺の顔を上から見下ろしている。シーリングライトの逆光になって影になる表情からは、軽薄な印象は当になく嘘とも思えなかった。
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