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第4章
11 どっちがいい?
しおりを挟む俺の手を握るように持ち替えたカササギは、甲に軽く爪を立ててから指を滑らした。
「んなわけねえだろ。タカを危険な目に合わせることなんかしないよ」
あいつは俺の顔を見ずに言う。空いてる方の手で片膝を抱えた。
「そうかな」
「そうだよ。俺、あんたに会いたかったんだから……」
言いながらカササギは俺の方を向く。絡めていた手を外し、俺の顔を両手で囲った。誘うような目つきと唇が生きている小悪魔のようだ。
「キスしてよ。わけわかんないこと言ってないでさ」
図星だったのだろう。カササギは俺をわかりやすい手管で惑わそうとしてる。そんなのに引っ掛かるつもりはないが、俺は言われるままあいつに口づけた。
柔らかい唇はいつものように俺の内を熱くさせ、絡め取られた舌に正直に反応した。
華奢な体を両腕で抱きしめる。あいつは俺の耳朶を舌で舐めた。
「ねえ……宗志さんとオレはどっちがいい?」
抱きしめた腕がぴくりと揺れる。なんで今、宗志の話をするんだ。俺には聞きたいことが山とあるのに。色気の次は俺の話に挿げ替えてるのは明らかだったが、俺は正直に応じることにした。
「いいか、ねえ? そうだな。どっちがいいかなら、おまえだな」
どっちが好きかなら返答に窮したが、『いいか』ならカササギだろう。自分が未熟だったせいもあるけれど、体は嘘をつけない。しな垂れるカササギから体を離し、あいつの額に指をつんと指した。
「そうなんだ。へへ」
その意味を知ってか知らずか、カササギは素直に切れ長の双眸を細め笑みを作る。照れくさそうにしてるのは演技なのかわからない。
どうかすると、空ともう融合し始めてるんじゃないかと期待してしまうがそんな簡単なわけはない。
「おまえ、さっき言ってたな。空は『体と心がぐちゃぐちゃになった。欲望と恐怖が一緒になった』んだって。空は大丈夫なのか?」
「心配?」
笑顔がすっと真顔に戻る。ふっと一つ息を吐いて、ソファーの背に凭れた。相変わらず片膝を抱いている。
「心配に決まってるだろう。おまえだって主人格が弱るのは困るんじゃないのか」
主人格は消えることはない。別人格がとって代わるというのはSFでしかない。主人格が作り出したものは、同じように弱っていくそうだ。
そしてこの病はもう一つの段階を経てしまう。自己崩壊だ。これだけは避けなければならない。これは俺がネットや書籍で得た情報ではあるが、間違ってはいないはずだ。
「そこは心配してないな。あいつが塞ぐのはいつものことだし。外見てみなよ」
くいっと顎を振る。それを示す場所に顔を向けると、リビングの掃き出し窓の外に見える夜景が滲んで見えた。
「雨か……いつの間に降ってきたんだ」
「鬼塚センセたちが来た頃かな。ラグの上で転がってたとき気付いた」
色々あって、しかも雨が降って来たんじゃ空はもう少し引っ込んでいるかもしれないな。
「空もタカが好きになったんだなあ。オレたち、今度こそ統合できるかも」
「そうなのか?」
「さあ」
「さあってなんだ。おまえ……」
大事なことなのに、なにを誤魔化すんだ。俺が突っかかるのを見越してか、あいつはまたラグに転がった。
「ねえ、宗志さんのこと、後悔してんでしょ?」
カササギは微妙なタイミングで話を宗志に戻す。
「なんで宗志の話に戻るんだ」
「約束だろ? オレにも話してくれるって。話を変えたのそっちじゃん」
言われてその通りだと思い返す。空のことは気になるし、事件のこともカササギの口からききたいのは本音だが、あいつの気が済まない限りはぐらかされそうだ。俺は観念して、時計の針を巻き戻す。
――――後悔か。そんな言葉で片付くようなものでもないけれど。
「ああ、そうだな。後悔しても仕方のない話だが。俺は意気地がなかった」
カササギが手招きをする。俺にもラグに来いという。俺は大きなため息をつきながら、よっこらっしょと座を立っ
てあいつの横に腰を下ろした。
「おっさんだなあ、もう」
「おっさんだよ、間違いなく」
ふふふとカササギが口元を緩める。それから俺の胡坐の上に上半身を乗せてきた。どうしても体を触れさせておきたい奴だ。空と正反対なのは、それでバランスを取っているってわけか。
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