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第4章
3 欲望と恐怖と怪物
しおりを挟むカササギの指示通り、俺はすぐに鬼塚医師に連絡した。夜の8時を回っている。リビングのソファーでは、カササギが珈琲を飲んでいた。
いくらか落ち着いたのか、エプロンを脱ぎ、俺の血で汚れたシャツも着替えていつものだらしない風体になっている。
『すぐに行きます。それと、納屋さんにも連絡しますので、警察に連絡するのは待っていただけませんか?』
警察に連絡すると言われて俺はたじろいだ。確かに1歩間違えば、救急車とパトカーでマンションの周りは騒然とするところだった。マジで手のひらに切り傷が出来た程度で良かった。
俺はスマホをテーブルの上に置いて大きく息を吐いた。手のひらは救急箱に入っていた包帯できつく縛ったら血は止まってくれた。鬼塚も一応医者なんだから、手当くらいしてくれるだろう。怪我をしたことは伝えていた。
――――しかし、納屋に連絡すると言ってたな。あの男、今どこにいるんだろう。ここに来るのか? やっぱりもっと早く接触しておくんだったな。
後悔しても始まらない。俺は腹が減っているのに気付き、冷蔵庫にあったサラダを取り出してソファーに行った。
「食べるか?」
「ん。いいや。タカが食べて」
「そうか? じゃあ遠慮なく」
空が夕飯用に作っていたのか。そう言えば、ハイボールのつまみだけで夕飯食べてなかったな。
「カササギ、話してくれないか。さっきのは何者なんだ。それから、俺のせいってどういうことだよ」
カササギは気だるそうに俺を見上げた。サラダをパクつく俺の隣で、ソファーの背に体を委ね、足を組んでいる。
「タカが、空を抱くからだよ。全く、実は3Pしたかったんだろ」
「はあっ? な、なにを言うか。大体キスしかしてない」
こいつに責められる。それは何となく頭の隅にあったけど、あの雰囲気に……俺は自分を止められなかったんだ。
しばしこの腕に抱いていたけど、俺はキスだけで踏みとどまった。空を無理に押し倒したりしたら、それこそ殺され……。
――――そうなのか?
「そう? なら、空がしたかったんだろ」
「え……」
俺はごくんとサラダを呑んでしまった。まだかみ砕いてないのに。カササギは上目遣いで俺を非難してるかのような目つきだ。
あの時、ついさっきのことだけど、空は大人しく俺の腕の中にいた。それでも、それ以上進めることはせず、ウトウトしていた眠気に忠実に従ったのだが。
「体と心がぐちゃぐちゃになったんだよ。欲望と恐怖が一緒になった。だから……あの怪物が出てきちまった」
「怪物……」
「オレだって傷ついてるんだ。もう少しで消されるとこだったんだから」
今、カササギが物凄い重要なことを言った気がする。たった二言。でも、それには見過ごせない情報が露わになっていた。
「カササギ、その話……」
いつになく真剣な表情であいつに詰め寄ろうとしたとき、玄関のインターホンが鳴った。鬼塚が来たらしい。
「ああ、もう。いいや、後で話せよ」
「了解―」
やはりだるそうに右手を上げる。もう少し話をしたかったが待たせるわけにもいかない。俺はインターホンに応対し、鬼塚を招き入れた。
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