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第3章

16 隠されていた事実

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 山へ向かう高速道路は、平日にしては混雑していた。季節も天気もいい、絶好の行楽日和だったんだろう。俺はそんなこと気付きもせず、いらいらと前の車のブレーキランプを睨んでいた。

『僕は学生時代の遊びと考えてない。久遠も一緒だ。僕は別れるつもりないから』

 父親がようやくリハビリを開始したころ、宗志は響子夫人にそう宣言した。あいつも父親が倒れたときは、さすがに言えなかったんだろう。けど、そこに隙があった。

『もし、久遠さんが別れることに同意したら?』
『だから、そんなことあるわけない。でももしそんなことがあったら、僕も潔く諦めるよ』

 まさか母親が、俺に金を持って別れ話をしにいくなんて思ってもいなかった。宗志はお金を受け取った俺に愕然とした。

 俺の部屋から運び出した荷物は、宗志に断りなくしたことだった。逆に宗志は戻ってきた荷物を前に、俺が送り返してきたのだと言われた。
 俺にとっても衝撃だったから、あれは実に巧妙な手段だったな。感情や言葉より、如実に現状を語っていたから。

 宗志はそれでも、しばらくは普通を装い生活をしていたという。けれど、時々なにもないところで突然ハイになったり、怒り出したり、いかにも精神状態が安定してない言動を見せた。
 そのうち今度は無感情、無表情になり、人と話すのも億劫な様子になる。その状態がひどくなったのは、新入社員として森嗣製薬に入社してからだ。心療内科でうつ病と診断され、休職を余儀なくされた。

 響子夫人から聞かされた事実に、俺は言葉もなくただ茫然とするのみ。そのうち怒りが体中を駆け巡った。怒りは夫人に対してというより、自分にだ。
 どうして俺は、あいつを信じてやらなかったのか。宗志が俺を遊び相手と思ってるわけがない。何故そう思わなかったのか。
 確かめることもなく、がらんとした部屋に打ちひしがれて……それ以上に胸を抉られることを恐れてしまった。

 心当たりのある場所。煮えくり返る腸をとにかく今は納め、俺は宗志の居場所に思いを巡らした。車だというから、一緒に旅行したところだろうか。
 あそこでもない、ここじゃあないと頭をフル回転して思い出を探った結果。あの場所しかないと思い当たった。けれど、それが正しいのであれば、あいつが向かった理由は一つしかない。

 ――――宗志……どうか間に合ってくれ。早まるな、俺が行くまで。

 無理な追い越しを繰り返し、高速を抜ける。せめて明るいうちにたどり着かないと。焦る思いでどうにかなりながら、俺はなんとかその地にたどり着いた。

 宗志と初めて心を通わせたキャンプ場。大学のサークルで出かけた場所だ。あいつが落ちた湖、もしかしたらいるのではないか。

 ――――これ、もしかして宗志の車か?

 駐車場には数台の車。そこに、綺麗に磨かれた欧州車が一台停まっていた。森嗣家の車は常に磨かれていた。マセラティではないが、間違いない。俺は車を停めるのももどかしく飛び出すと、湖の桟橋へと走った。


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