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第3章

14 心を蝕むもの

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 偶然だが、俺の同期が森嗣製薬を担当している支店に配属されていた。どうにも気になった俺は彼に聞いてみることに。

『そうか、森嗣の後継者は久遠の同窓だったな』

 それほど仲良かったわけではないが、同じあの意味不明な研修を受けた同士とでも思っているのか、わざわざ調べて教えてくれた。それは、俺にとって衝撃の事態だった。

 宗志は入社してすぐ、メンタルを理由に休職していた。新入社員でそんな状態だと、普通なら退社しそうだが、宗志は良くも悪くもそういうわけにはいかない。

『一時退任も噂されてた社長が、順調に回復して元気だから問題ないんだけど、おまえの同窓生はこの先どうするんだろうな。会社が合わないなら、新しい道を進むのも有りだと思うが、同族企業はそうもいかないんかな』

 同期は宗志を責めるでなく、同情するように言った。俺に気を使っているのかもしれないが、俺には救いだった。

 ――――新しい道を進む。

 メンタルといえば、うつ病なんだろうか。重症だと心配だけど、ちゃんと治療を受けていれば大丈夫かな。
 後継者として仕事をするのは新人ならばキツイだろうけど、宗志がそんなことで心を病むなんてちょっと想像できない。俺と付き合うようになる前も、あいつは諦めていたようで淡々と受け入れていた気がする。

 ――――それとも、宗志の心を蝕んでいるのは、まさか俺とのことなのか? まさかな。あいつにとって俺との恋は、学生時代限定のお遊びだったはずだ。

 支店での慣れない業務や面倒な規則、上司に憤然としながらも、どうにも俺は宗志のことが気になって仕方なかった。
 母親である響子夫人の言葉の全てを信じたわけじゃない。けど、あいつも納得してるのだと俺は思っていた。だから、あの金を受け取ったんだ。未だに使ってないけど。

 宗志の心を重くしているのは何か、もし俺との別れならあの日の決断を後悔しているのか。当の俺はどうかと尋ねられたら、俺は返答に悩む。
 就職を機にいくらかマシなアパートに引っ越したけれど、隙あらば宗志が脳裏に入り込んでいた。あんな別れ方して良かったのか、ちゃんと話をしたかった、といつまでもウジウジしていたのが現実だ。

 けれど、宗志に連絡を取る。そんな簡単なことを俺はしなかった。既に連絡先は削除しているけど、多分方法はいくらでもあったろう。気持ちのなかで、簡単なことではなかったんだ。


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